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あなたのとりこ 125 [あなたのとりこ 5 創作]

 この日の会合は二時間程でお開きとなるのでありました。当初の集まった目的からすれば何の成果も無い単なる飲み会と云う事になったのでありますが、頑治さんとしては日頃あんまり交流の無い社員の気心が知れる好い機会ではありました。特に那間裕子女史とのインフォーマルな席での接触は、意外な女史の側面を見せられた思いでありましたか。
 随分お高くとまった、会社の人間なんぞには興味の欠片も持っていない人だと云う先入観があったのでありましたが、案外そうでもないようであります。まあしかし同僚の山尾主任とは全く言葉を交わす事も無く、隣同士に座る事も無かったのは女子の彼の人に対する好悪の感情をはっきり表わしているようにも見えるのでありました。
「何だか飲み足りないから、これから新宿で飲み直しよ」
 居酒屋を出て神保町交差点の地下鉄駅入り口辺で、那間裕子女史は頑治さんと均目さんに云うのでありました。声を掛けたのは頑治さんと均目さんだけで、他の人は誘わない心算のようでありました。日頃の親密度から均目さんと、それから本日をもって親密に付き合っても良いとの判断を得た頑治さんと三人での二次会と云う按配でありますか。
 那間裕子女史は端から営業部の袁満さんと出雲さんは誘わない心算のようでありますし、同じ制作部ながらも山尾主任も除外と云う了見のようであります。二次会のお誘いを受けた栄誉は忝いのではありますが、頑治さんは今一つ、どうして自分如きが那間裕子女史の歓心を得る事が出来たのか未だ良く判らないのではありました。

 三人は新宿に出ると、昼間はジャズ喫茶で、夜になると酒場となると云う靖国通り沿いの商業ビルの地下に在る店に入るのでありました。那間裕子女史も均目さんもそこは馴染みの店のようでありました。ひょっとしたら好い仲の二人は、会社帰りに二人でよくその店に立ち寄るのかも知れないと頑治さんは憶測するのでありました。
 丸いテーブル席を三人で囲んで那間裕子女史はジントニックを、均目さんはウィスキーのオンザロックを、それに頑治さんはウィスキーソーダを注文するのでありました。つまみ物はピーナッツとバタープレッツェルと割いたスルメと云う、頑治さんにしたら何の腹の足しにもならない物でありました。ここは凝った料理は出ない店のようであります。
「唐目君はなんでウチの会社に就職したの?」
 那間裕子女史がかなりの音量で後ろに流れるジャズのレコードの、小節の間隙を突くようにして頑治さんに訊くのでありました。
「いやまあ、特にこれと云った理由は実は無いのですが、飯田橋の職安で紹介されて、適当かなと思って面接を受けたら採用となったのです」
「ふうん。意外とお手軽に選んだと云う訳ね」
「まあ、そう云うとすれば全くそうですかね」
「あたしは新聞の求人広告よ」
「俺もそうだな」
 均目さんが那間裕子女史の隣で頷くのでありました。「営業の袁満さんも出雲君も飯田橋の職安派だと云っていたかな」
(続)
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