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あなたのとりこ 120 [あなたのとりこ 4 創作]

「そこが曖昧なままで、これから一体何の話し合いをするの?」
 那間裕子女史はそう云って小さく舌打ちをするのでありました。この会合の抑々の辺りを無効にするようなこの発言に、山尾主任が嫌な顔をするのでありました。
「まあそうだけど、出ない可能性があるんだから、その場合も考えて今から対策を話し合って置くのも決して無駄じゃないだろう」
 まあ、呼び掛け人としてはそう云って会合の意義を強調するしかないでありましょう。この時点で会合を持つ事自体が間抜けな事と断じられたようなものでありますから。
「無駄よ」
 那間裕子女史は鮸膠も無いような云い草で決めつけるのでありました。「だって出る事がはっきりしたなら全くの無駄じゃないの」
「出ないかも知れないんだからね」
「先ずは土師尾さんにちゃんと確認する方が先よ」
 何となく二人の意地の張り合いみたいな雲行きであります。袁満さんを始め均目さんも出雲さんも、それに頑治さんも、山尾主任と那間裕子女史の掛け合いに口を挟む余地も気持ちも無くてダンマリを決め込むと云った按配でありました。
 どうやら山尾主任と那間裕子女史は、普段から余り反りが合わない同士なのでありましょう。確か山尾主任の方が一つ二つ歳上でありますが、そんな歳の差を那間裕子女史は全く問題にしていないようであり、それを問題にしようとしない女史に対して山尾主任としては内心、少しは歳上の俺を敬ったらどうだと云った苦々しさがあるようであります。
「じゃあ、もう、今日の会合はこれで打ち切るか」
 山尾主任は短気を起こしたようでありました。
「山尾さんなり袁満さんなりが先ず、明日にでも土師尾さんにちゃんと確認を取るって、そこを確認したら、取り敢えず今日集まった意味はある事になるじゃない」
「俺が確認を取るのか?」
 山尾主任が少したじろぐのでありました。それに突然ここで名前の出てきた袁満さんの方は「え、俺?」と小声で呟いて、自分の驚いたような顔を自分で指差して見せるのでありました。こちらも明らかに及び腰のようであります。
「そうよ。この中では一番歳上だし古株だし、主任と云う肩書きもある山尾さんが六人を代表して訊くのが妥当でしょう。それに後は、営業部繋がりでは袁満さんよね」
 こういう時だけ歳上扱いかい、と云う山尾主任の不満の声が聞こえてきそうでありましたが、膨れっ面をするだけで山尾主任はそう云う事はものさないのでありました。これは案外、ここで那間裕子女史に歳上と認められた事が満更でもないのかも知れません。袁満さんの方は只管山尾主任の方にお鉢が回る事を祈るような顔付きでありましたか。
「じゃあ判ったよ。責任上俺が明日確認を取るよ。そう云う事でお開きとするか」
 山尾主任は怒ったように云って席を立とうとするのでありました。
「待ってよ、そんなにカリカリする事は無いじゃないの」
 ここで那間裕子女史は急に顔と言葉から無愛想色を消すのでありました。
(続)
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