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あなたのとりこ 103 [あなたのとりこ 4 創作]

 そう云われて頑治さんは一応愛想から口角を上げてみせるのでありましたが、刃葉さんとはこの先縁が無くなる事を祈るのでありました。そう云う頑治さんの気分なんぞは隠せないもので、刃葉さんは苦笑してから頑治さんに背を向けるのでありました。

   木枯し

 夕美さんがバスタオルで洗い髪を拭きながら風呂場から出て来るのでありました。
「寒い々々」
 夕美さんは炬燵に足を潜り込ませながら云うのでありました。「この頃随分寒くなってきたわね。もう本格的な冬って感じ」
 頭を拭いたタオルが未だ夕美さんの肩に掛かった儘になっているのは、充分に髪の毛の水分が拭き取られてはいないからでありましょう。頑治さんは夕美さんの首半分を隠すように厚く蟠っている肩のバスタオルを見ながら返すのでありました。
「未だ十一月の初旬だと云うのにね」
「今年は例年になく冬が来るのが早いってテレビで云っていたわ」
「今年は大雪が降るかもかも知れない」
「そうね。それもニュースで云っていたわ」
 夕美さんは肩のタオルで横の髪を挟むようにして水気獲りに忙しいのでありました。頑治さんは立ち上がって冷蔵庫から缶ビールを持って来るのでありました。寒い々々と云いながら冷えた缶ビールもないかと思うのでありましたが、しかし態々日本酒の熱燗を仕込むのも面倒であります。まあ、大して手間は掛からないでありましょうけれど。
 頑治さんが夕美さんの前に缶ビールを置くと夕美さんは髪の毛拭きの手を休めない儘、先ずその置かれた缶を見て、それからすぐに頑治さんの方に目を移してニッコリと微笑むのでありました。何時ものように可憐な笑顔でありました。頑治さんは冷えた自分の指先にほんの少しながら熱を感じたような気がするのでありました。
「有難う」
「寒いのに冷たいビールで良いかな?」
「うん。大丈夫」
 夕美さんは髪の毛拭きを中断して缶ビールを取り上げると、プルリングを引き開けるのでありました。炭酸の抜ける音が小気味良いのでありました。頑治さんもその後に同じ音を手元で響かせてから一口煽るのでありました。
「幾ら日曜日だからって、朝からビールと云うのは少し気が引けるけど」
 夕美さんはそう云いながらも、風呂上がりの渇いた喉にビールを三口程流し込んでからその後で如何にも爽快そうに溜息を吐き出すのでありました。
「さて、今日はどうしようかな」
 頑治さんがそう云ってからまた一口ビールを口に含むのでありました。
「映画にでも行く、新宿か池袋辺りに?」
(続)
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