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あなたのとりこ 101 [あなたのとりこ 4 創作]

「その辺は俺には判りませんけどね」
「まあしかしこれでようやくこの倉庫の中も綺麗になるだろうね。唐目君は綺麗好きらしいし几帳面だし、仕事もそつが無いし気も利くし」
「いやあそうでもないかも知れませんよ。自分で自分の事を綺麗好きとか几帳面なんて思った事もありませんからね。倉庫の美化に関しては保証の限りではありません」
「現に唐目君が来てから格段に綺麗になったし、商品は整理整頓されているし、この棚の見取り図と正確な在庫表のお蔭で商品の出し入れもスムーズになったし」
 袁満さんは貼ってある見取り図を指差しながら頑治さんを大いに持ち上げるのでありました。しかし刃葉さんの事はさて置き、山尾主任や均目さん、それに出雲さんやこの目の前の袁満さんとか、倉庫によく出入りする他の人が今迄仕事の効率化のために何の画策もしなかったと云うのが、頑治さんにしたら何とも怠慢にも思えるのでありました。
 倉庫の現場管理者たる刃葉さんを憚ったと云うのもあるのかも知れませんが、しかしそれにしてもそんなのは態の良い云い訳以上ではないでありましょう。第一これ等の人達は刃葉さんの仕事振りを信用もしていなかったし侮って止まなかったのでありますから、仕事が滞ると思うなら、刃葉さんに遠慮すること無く、それに陰で刃葉さんへの不満をものすだけでなく、自分が何がしかの方策を堅実に施せば良かったのであります。
 依ってこれ等の人達も、無責任と職務怠慢の誹りは免れないと頑治さんは思うのであります。まあここで敢えてそれを口にして論う心算は無いのでありますが。

 二日後に刃葉さんは会社に遣って来るのでありました。頑治さんはその日は午前中に上野の取引先に商品配達の仕事があったので、倉庫の私物を整理すると云う刃葉さんを残して一人で出かけるのでありました。私物の整理とやらでまた倉庫内が荒らされるのではと云う危惧もあったのでありましたが、帰ってみると特段倉庫が取り散らかっている様子も無いのでありました。頑治さんは秘かに安堵の溜息を吐くのでありました。
 倉庫に在る刃葉さんの私物と云ったら、ロッカーに入れてある数本の木刀やらボクシングのグローブやら、襟の辺りが古びて解れた柔道着やら、これも縁が解れて色も褪せた錦糸で名前の刺繍が入った柔道の黒帯やら、空手の突きの練習用に棚の柱に括り付けたある古座布団やらでありますが、作業台の上に並べている、持って帰るのであろう物を見ると柱に括り付けていた古座布団がそこには見当たらないのでありました。頑治さんにしたら今迄倉庫の中でそれが一番目障りだったからその事を訊き糺すのでありました。
「奥にある柱に縛り付けている座布団は持って帰らないのですか?」
 そう訊かれて刃葉さんはどう云う心算なのかニヤリと笑うのでありました。
「ああ、あれね。あれは捨ててくれて構わない」
「俺が捨てるのですか?」
「他に何かあれこれ見付けたら適当に処分してくれて構わないよ」
「いやそうじゃなくて、今日の内に刃葉さんが自分で、自分の責任に於いてすっかり処分して行くんじゃなくて、後で俺が捨てるのですかと訊いたのです」
(続)
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