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あなたのとりこ 99 [あなたのとりこ 4 創作]

「有給休暇が未だ残っているから今日はこれで帰りますし、明日も来ません」
 刃葉さんが土師尾営業部長にまるで宣言するように云うのでありました。「明後日は一応最後の挨拶と私物の整理に来ますが、それで構わないですね」
「有給休暇があるのなら仕方が無いけど、仕事の方はそれで問題無いんだね?」
 土師尾営業部長はこの宣言をあっさり了承するのも癪だと思ってか、一応そこいら辺を確認すと云った風に訊き糺すのでありました。
「問題が無いと部長も思ったから、昨日さっさと辞めろと云ったんでしょう」
 刃葉さんは何をほざくかと云う顔をして苛立たし気な口調で返すのでありました。
「別にさっさと辞めろ、なんて云っていないよ」
 土師尾営業部長はしれっと抗弁するのでありましたが、それを聞いて頑治さんは吹き出しそうになるのでありました。使った言葉は違っていても、謂いはさっさと辞めろと云う事に違いないのでありますから、何を今更どの面下げてと云うところであります。
 刃葉さんは土師尾営業部長の云い草に、急に表情を険しくするのでありました。しかしこの期に於いて云った云わないで争うのは全く無意味だと考えてか、まあ良いや、と呟いて不愉快そうに受け流して、頑治さんの方に顔を向けるのでありました。
「もう俺が居なくても大丈夫だよな?」
 刃葉さんは頑治さんにそう確認を取ろうとするのでありました。
「大丈夫です」
 頑治さんは簡潔に応えるのでありました。これは些か刃葉さんに対して素っ気無さ過ぎる云い方だったかなと、云った後で思うのでありました。
「唐目君もそう云っているんだから、問題は無いですね」
 刃葉さんはまた土師尾営業部長の方に顔を向け直して無愛想に云うのでありました。
「判りました。そう云う事なら」
 土師尾営業部長はまたもや丁寧な口調で頷くのでありました。
 刃葉さんはその言葉を聞いて土師尾営業部長との遣り取りを切上げて制作部のスペースに向かうのでありました。そちらへも後三日で辞める事にした点と、今日明日は有給休暇を取って明後日に顔を出す旨告げるためでありましょう。
 マップケースの壁に阻まれて頑治さんには制作部での遣り取りは確とは聞こえなかったものの、別に片久那制作部長が刃葉さんを引き留める様子も窺えないし、刃葉さんの思わぬ早目の退社をあっさり受け入れるようでありました。
「今までご苦労さん。落ち着いたらまた遊びに来てよ」
 山尾主任もそんな気の無い愛想なんぞをものして餞としているのでありました。均目さんは仕事の上で刃葉さんと馴染みも有ったから、こちらも、ご苦労様でした、の短い別れの挨拶を送るのでありましたが、那間裕子女史は殆ど交流が無かった故か特段餞別の言葉を発する気配も無いようでありました。まあ女史としても刃葉さんの方をふり向いて、一時でも同じ釜の飯を食った会社の同僚として軽く頭くらいは下げたでありましょうが、しかし何れにしても制作部の反応は全く呆気無い程事務的な様子でありましたか。
(続)
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