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あなたのとりこ 97 [あなたのとりこ 4 創作]

 袁満さんが横から話しに加わるのでありました。
「迂闊じゃなくても、履歴書の中に書いてある、日本思想史、と云う言葉がピンとこなかったのかも知れないな。大体に於いて血の回りが悪い人だからね、あの人は」
 日比課長も参加するのでありました。
「親鸞とか蓮如がどうのって話すんだけど、土師尾営業部長は本当にその思想が判っているのか均目さんは大いに疑問だったようですね。この人は僧服を着てお経をつるっと暗記して、それを如何にも外連味タップリに唱えて見せて、仏事の作法を細々習得すれば立派な坊主になったと考えているだけの人じゃないかって、そう思ったそうです」
「まあ、あの人の仏教に対する了見は粗方そんな程度だろうな」
 袁満さんが出雲さんが紹介した均目さんの意見に同意を示すのでありました。
「でも、学生時代に特に今まで縁も所縁も無かった仏教に傾倒したというのであれば、それなりにそれを求める気持ちが高揚する経緯があったと云う事じゃないですかね」
 頑治さんがボソッと云うのでありました。
「気持ちが高揚する経緯って?」
 袁満さんが首を傾げて頑治さんを見るのでありました。
「まあ例えば、境遇に於いて激変があったとか、生涯を決定するような霊的感動があったとか、自分のこれまでの生き様に心底悩んでいたとか」
「そんなもの、あの人にある訳が無い」
 日比課長が憫笑を湛えて、ここもきっぱり否定して見せるのでありました。「そんな高尚なオツムなんかあの人は持ちあわせていないよ」
「別に高尚と云うのではないでしょうが」
「兎に角、人を差し置いてでも自分が先ず得をしようと云う卑劣な根性しか無いし、只管隠そうとしてはいるけど俺以上にスケベで俗物だね。まあ、体裁上人に高尚な人間に見られたいと云うさもしい目論見は人一倍持っているみたいだけどね、あの人は」
「日比さんよりスケベで俗物と云うのなら、それは相当なものだね」
 袁満さんが混ぜ返すのでありました。
「でも親鸞だって最初はそう云われて迫害されていたでしょう」
「親鸞はそうかも知れないけど、アレは全くの別物だ。正真正銘生一本の俗物だよ」
 日比課長は自信たっぷりに請け合うのでありました。竟にアレ呼ばわりになったところを見ると、日比課長も土師尾営業部長を心底では軽侮しているようであります。
「均目さんは、あの人は親鸞の教えを悪用しているだけだとも云っていましたね。俺はさっきも云ったように仏教にはド素人だから、それがどういう事かよく判らないけど」
 出雲さんが再び均目さんの意見を紹介するのでありました。要するに悪人正機説を逆手に取って、念仏さえ唱えていれば何をしようが構うもんかと開き直っていると云う事でありましょうか。まあ、その内均目さんに訊いてみれば教えてくれるでありましょうが、それにしても土師尾営業部長はひょっとしたらその悪質性に於いて刃葉さん以上に社員から、いや少なくとも頑治さんの前に居る三人から疎まれている存在なのかも知れません。
(続)

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