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あなたのとりこ 96 [あなたのとりこ 4 創作]

 袁満さんは苦った表情で云い返すのでありました。「大人しく飲んでいる俺や出雲君の横で、日比さんだけがお姉ちゃんに悪ふざけしながら羽目を外していたんだ」
「いやいや、袁満君こそ目立たないながら執拗にちょっかい出していたくせに」
「そんな事無いよ」
 袁満さんが首を横に振りながらきっぱり否定するのでありましたが、こうまで一生懸命肯んじないところを見ると日比課長の言も満更間違ってはいないのかも知れません。
「その伊東温泉の社員旅行中に均目さんの方から、何気なく浄土真宗の教義とかについて土師尾営業部長に訊ねたのでしょうかね?」
 頑治さんは話しの舵を土師尾営業部長の宗教の方へ戻すのでありました。
「部屋で二人になって布団を並べて寝ている時に、丁度良い折だと思ったのか、土師尾営業部長の方から話し出したって均目さんは云っていましたけど」
 出雲さんがそう云いながら頑治さんのコップにビールを注ぐのでありました。
「宗教の話しになったら待ってましたとばかり得意になってベラベラ喋り出すに決まっているから、そんな面倒臭い事を態々均目君の方から仕かける筈はないわなあ」
 袁満さんも頑治さんの後に出雲さんの酌を受けながら云うのでありました。
「土師尾営業部長にしたら、屹度勧誘でもしようと云う魂胆だったんでしょうね」
「布教活動の一環と云う訳ですか」
 頑治さんはすっかり満たされたコップのビールを二口で半分程飲むのでありました。空かさず出雲さんはまた頑治さんのコップの上でビール瓶を傾けるのでありました。
「そう云う心算だったかも知れないけど、ところがどっこい均目さんは大学時代の専攻は日本思想史だったから、そう一筋縄ではいかないと云う寸法です」
「均目さんは日本思想史が専攻だったんですか?」
「そうみたいだね。確か史学部だったか文学部だったかの、日本史科だったか哲学科だったかの卒業だって前に訊いた事があるね」
 袁満さんがそんな事を紹介するのでありました。頑治さんは均目さんが大学時代に日本史だったか哲学だったかを専攻していたと云うのは初耳でありました。今迄均目さんとそんな話しはしなかった故でありましたが、成程そう云えば均目さんは頑治さんと閑話する時でも、話し振りに妙に理屈っぽいところがあるのはその故かも知れません。
「均目さんに依れば土師尾営業部長は先ずは均目さんの家の宗旨を聞いてきて、それから滔々と浄土真宗について語り出したって云っていました」
 出雲さんが伊東温泉の旅館の部屋での話しを続けるのでありました。
「土師尾営業部長は均目さんが入社する時に履歴書に目を通しただろうに、大学時代に日本思想史を専攻したと云う事は知らなかったのでしょうかね?」
「知らなかったんじゃないですか。或いは、目を通していたとしても新入社員の学歴なんか、大学の名前には多少の興味を示したとしても、その専攻まではどうでも良かったたと云う事じゃないですかね。どうせ営業部ではなく制作部に入る人なんだし」
「土師尾営業部長は損得勘定以外は結構な迂闊者でもあるしね」
(続)
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