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あなたのとりこ 82 [あなたのとりこ 3 創作]

「その体系は皆が納得出来るものかな?」
「ま、一応はね。文句を付けるような隙はないかな。でも喜んで復すと云う感じではないなあ。何せ両部長を除いて安月給には違いないから」
 確かに頑治さんの給料にしても、これまでのアルバイトの賃金に比べれば多少は厚遇ではあるけれど、決して高いとは云えないものでありましたか。
 ただ文句を付けるような隙が無いと云う事は、給料が片久那制作部長の恣意に依っていると云う訳でもないのでありましょう。一種の平衡感覚は持ちあわせた人のようであります。土師尾営業部長に比べれば格段に信頼は置けると云う事でありましょうか。

 金曜日午前の定期便である本郷の大木目製本所へは山尾さんが連れて行ってくれるのでありました。山尾さんの運転は刃葉さんとは違って脇道への侵入も無く決まり切ったルートを無難に走行すると云った具合で、二十分程で目的地へ到着するのでありました。
 倉庫での材料積み込みも、大木目製本所での出来上がり製品引き取りも、それから工場長に頑治さんを紹介するのも、些か愛想が無さ過ぎるくらい至って事務的に山尾さんは処理するのでありました。山尾さんと工場長の間には軽口や冗談の遣り取りも顔馴染み同士の気安い雰囲気も無く、余りに事務的過ぎて、頑治さんは四十年配の作業服を着た工場長に自分を頭の片隅にでも覚えて貰えたかどうか心配になるくらいでありました。
 さっさと辞す、と云った感じで大木目背本所を出た車は、行きがけ同様のルートであっさり猿楽町の会社に戻って来るのでありました。山尾さんは引き取って来た製品の荷下ろしを頑治さんに任せて、自分はそそくさと三階の事務所に戻るのでありました。
「やけに速かったなあ」
 倉庫内で梱包仕事をしていた刃葉さんが頑治さんに声を掛けるのでありました。
「道に迷うようなルートじゃありませんから」
 頑治さんは多少の揶揄を込めてそう返すのでありましたが、刃葉さんはそれには無反応と云った顔で、眉根を寄せる事も頑治さんを睨む事もしないのでありました。
 例によって刃葉さんの梱包仕事のために倉庫内は散らかり放題になっているのでありました。頑治さんはやれやれと云った顔をして作業台の辺りを一瞥し、今引き取って来た荷を車から下ろし、自分が整理した棚への積み上げ作業を開始するのでありました。
 午前中の仕事が終わる十二時近くになって新の段ボールを納品に来たトラックが駐車場前に停車するのでありました。その日段ボールの納品があると云う事は、大木目製本所に向かう車の中で山尾さんから頑治さんは聞かされて承知しているのでありました。
 頑治さんは駐車場に停めてある車を一旦出して通路を開けてから、トラック運転手が荷下ろしして倉庫扉前まで折り畳まれた段ボールの束を運ぶ作業を手伝うのでありました。その後に納品書にサインをしていると運転手が頑治さんに訊くのでありました。
「何時もの倉庫の人は居ないの?」
「いや居ますが他の仕事中です」
「あんたはアルバイトの人?」
(続)
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omachi

WEB小説「北円堂の秘密」を知ってますか。
グーグルやスマホでヒットし、小一時間で読めます。
その1からラストまで無料です。
少し難解ですが歴史ミステリーとして面白いです。
北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。
読めば歴史探偵の気分を味わえます。
気が向いたらご一読下さいませ。
by omachi (2017-12-21 13:50) 

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