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あなたのとりこ 74 [あなたのとりこ 3 創作]

「専門学校、それとも大学?」
「大学です」
「態々大学出て最初にこの仕事に就いたの?」
「ええそうです。ま、卒業したのは去年ですが」
「最近は就職難だとテレビで云っていたけど、なかなか仕事が見つからないのかしら」
 赤Tシャツはどこか頑治さんに同情するような気色を見せるのでありました。
「選り好みしなければ何かしらの仕事は見つかります。それに僕はどちらかと云うと頭を使うより体を使う仕事の方が性に合っていますから」
「ふうん、体育会系な訳ね。で、選り好みしないでこの仕事に就いたって訳ね」
「まあ、そう云った風な按配ですかねえ」
「縁があって就職したんだから頑張ってよ」
 横に居た黒縁眼鏡が、多分然したる意味も無い愛想の心算でありましょうが頑治さんを励ますのでありました。頑治さんは黒縁眼鏡に笑いかけてお辞儀するのでありました。

 帰りの車の中で運転する刃葉さんが、前を向いた儘含み笑いを作って助手席に座る頑治さんに話しかけるのでありました。
「あのオバさん連中、唐目君を気に入ったみたいだな」
「ああそうですか」
 頑治さんも前を向いた儘無表情且つ無抑揚にそう応えるのでありました。
「俺なんかには何時でも、態とのように苛々してくるような口のきき方をするってのに、今日は何となくしおらしかったものなあ」
「宇留斉製本所はあのお三人でやっていらっしゃるのですか?」
 頑治さんは話題を少し逸らすのでありました。
「そう。三姉妹の中で一応、長女だから眼鏡のオバさんが社長と云う事になるのかな」
「地方別観光絵地図の製本がウチの仕事の中では主要なものと云う事ですか?」
「そう。あれはタイトルのある位置が各地方によって違うから、畳み方も夫々違うので機械で均一には折れないんだよ。だから宇留斉製本所で手仕事して貰っているんだ」
 地方別観光絵地図は日本を七地域に分けたA全判のイラスト地図で、表面をビニール加工してA五判に畳んで、口が玉取り加工してある厚手のビニール袋に価格等の書いてある短冊と一緒に入れた商品であります。袁満さんなんかが各地の観光地に出張して、そこのお土産屋さんとかホテルの売店とかに卸している主要な商品と云う事になりますか。
「地方別観光絵地図以外にも製本仕事を出しているんですか?」
「うん。ちょっと込み入った、機械ではなかなか出来ないような物を頼んでいるよ」
「お三人だけでやっていらっしゃるのですか?」
「いや、パートのオバさんが後何人か居るよ」
「今日はいらっしゃいませんでしたね」
「昼から来るんじゃないの」
(続)
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