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あなたのとりこ 69 [あなたのとりこ 3 創作]

 頑治さんは三角形に加工してあるチーズを齧りながら云うのでありました。
「錦華小学校の付属の幼稚園かしら」
「多分そうだろう。いや俺も良くは知らないけど」
 頑治さんはそこに何が建つのか殆ど興味が無いのでありました。「でも、そのために公園がちょっと狭くなるのは何となく残念かな」
 錦華公園は平日の昼休み時間等、学生やら近所で働くサラリーマンなんかでなかなかに混み合っていて、空いているベンチが見付けられないくらいでありました。そう云えば会社の刃葉さんなんかも、未だ就業時間中にも関わらず無為に時間を潰すため錦華公園のベンチで屡転寝をしているのを見かけると袁満さんが云っていましたか。
「そうね、狭いけどあれはあれでなかなか、憩いの公園と云った感じだからね」
 夕美さんも少し残念そうな顔をするのでありました。
「ところで博士課程に行かない場合、大学院を卒業したらどうする心算なんだい?」
 頑治さんは話しの舳先を大きく曲げるのでありました。先程中華料理屋で訊いた夕美さんの話しが、何となく気に懸かっていたからでありました。
「博士課程に残らないって決めた訳じゃないから、そうしなかった後の事なんか未だ何も具体的に考えてはいないし、決めてもいないわ」
「ふうん。でもまあ、夕美の事だからそうなったらそうなったで、抜かりなく何処かちゃんとしたところに就職を決める事が出来るか」
「中学校か高校の先生になるのも悪くないかな」
 夕美さんは頑治さんに笑いかけながら云うのでありました。
「そうか、大学の時に教職課程は取ったみたいだしなあ」
「それに何処かの博物館の職員になると云うのも良いかも知れない」
「学校の先生か、博物館の職員ねえ」
 頑治さんは夕美さんがそう云う職業に就くのが似合っているのかどうか考えてみるのでありました。まあ、似合っているようでもあるし似合っていないようでもあるし。
「もっとバリバリ、商社とか銀行とか保険会社とか、或いは新聞社とかテレビの放送局とかで働く、なんていう野心的な了見は無いの?」
「あたしどちらかと云うと性格がのんびりしている方だから、あんまりバリバリとか云うのは自分に合ってはいない気がする。まあ、学校の先生も博物館の職員も、だからと云ってのんびり勤められる訳じゃないのは判っているけどさ」
 確かに夕美さんは性格におっとりしたところがあると頑治さんは納得するのでありました。だから一種地道に腰を据えて、丹念に研究を進めていく考古学と云う学問に魅かれたところもあるのでありましょう。しかし若し夕美さんが大学院卒業後にバリバリの方を選んだとしても、夕美さんの事だからそこはそれなりに賢く順応して、そつなく自分の与えられた仕事を熟す事が出来るのであろうとも思うのでありました。
「考古学からあっさり離れるのかな、若しそうなったら?」
「全く離れはしないけど、でも少し距離を置く事になるかも知れないわ」
(続)
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