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あなたのとりこ 48 [あなたのとりこ 2 創作]

「ああ、今年になって空手道場に通い出したらしいな」
 袁満さんも胡瓜の細切りスティックを摘むのでありました。「刃葉さんはウチの会社に入る以前から柔道と合気道の道場に通っていたんだよ。その二つは黒帯らしいし、去年はそれに加えて居合の道場にも通い始めたらしい」
「へえ。武道が好きな方なんですね」
「それにもう一つ、武道じゃないけどバレエの教室にも行っているらしい」
 均目さんがこちらも胡瓜のスティックを取りながら補足するのでありました。
「バレエと云うと踊りのバレエですか?」
「そう。VじゃなくてBの方」
「多才なんですね」
 刃葉さんにはバレエは如何にも似付かわしくなかろうと、その体育会系の容姿を思い浮かべながら頑治さんが複雑な笑いを作って感嘆して見せるのでありました。
「多才、と云うのじゃないだろうな。単に多趣味と云うのか気が多いと云うのか」
「しかしそんなに習い事をやっていると、毎日忙しいですねえ」
 頑治さんがもう一本胡瓜のスティックを取るのでありましたが、それが最後の一本でありました。これで粗方の酒の摘みは無くなるのでありました。
「そうね。朝からそっちに気持ちが向いているから、仕事に余計身が入らないんだ」
 袁満さんがそう云いながらメニュー表を取り上げるのでありました。
「しかし刃葉君がバレエの白タイツを穿いている姿は、あんまり見たくないねえ」
 日比課長が顰め面をして見せるのでありました。それは実見してみなければ判らないのではありますが、確かに刃葉さんはバレエの衣装よりは空手や柔道の稽古着の方が遥かにお似合いであろうと頑治さんも考えるのでありました。
「どう贔屓目に見ても、あの人はバレエと云う体型じゃないよ」
 袁満さんがその白タイツ姿を想像したのか、吹き出しながら云うのでありました。
「若い女の子のレオタード姿を見るのが目当てなんじゃないのかね、本当は」
 日比課長が卑俗な笑い声を立てるのでありました。
「いやでも、刃葉さんは女には興味が無いように見えるけど」
 袁満さんが異を唱えるのでありました。
「あれは興味が無いんじゃなくて、恐ろしくシャイなものだから無関心な風に必死に繕っているだけだろう。体裁上しれっとして実は一生懸命隠しているけど、本心では女の事が気になって気になって仕方がないんだよ。刃葉君は典型的なむっつりスケベタイプだね。その点、袁満君はあっけらかんとしたお人好し的スケベだから未だ許せるけどね」
 日比課長はそう断じるのでありました。
「そう云う風に褒められてもちっとも嬉しくないね」
 思わぬとばっちりを蒙った格好の袁満さんが口を尖らすのでありました。
「別に褒めた心算はないよ」
 日比課長はあくまで袁満さんをからかい半分にあしらうのでありました。
(続)
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