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あなたのとりこ 18 [あなたのとりこ 1 創作]

 そのライトテーブルの奥には製図板をやや斜めにして置いた重役机があって、そこには面接の時に終始不機嫌な顔をして、一言も発する事無く頑治さんを窺っていた片久那狷造制作部長が座っているのでありました。頑治さんは一瞬身構えるのでありました。
 ライトテーブルを挟んだ向こう側はブラインドの降りた窓が一面を占め、その下にはこれも小振りの製図板を置いた事務机が三つ並んでいて、手前の机に若い男、真ん中に若い女が座っているのでありました。一番奥の片久那制作部長の横手に当たる机には誰も居ないのでありました。おそらくそこが頑治さんをここへ誘った黒カーデガンの男の席でありましょうか。ここは制作部のスペースと云う事のようであります。
 頑治さんの姿が見えると奥の片久那制作部長が顔を起こすのでありました。片久那制作部長は意外にも過日の面接時とは違って頑治さんに笑顔を向けるのでありました。
 頑治さんは先ずは、このスペースのボスたる片久那制作部長の机に近付いて行ってやや格式張ったお辞儀をするのでありました。
「今日からお世話になります唐目頑治です」
 頑治さんが挨拶すると片久那制作部長は、ああよろしく、と返して小さく頭を縦に動かすのでありました。面接の時の無愛想とは打って変わって、この親愛感のある物腰に頑治さんは面食らうのでありました。外の人間に対しては至極冷淡なくせに一旦内側に入ると心を許すと云う、態度の懸隔が激しい人なのであろうと頑治さんはこの仁を値踏みするのでありました。まあ、無愛想にされるよりも愛想良くされる方が有難くはありますが。
「一応紹介しておくと、・・・」
 片久那制作部長は窓側に並ぶ三人の机の方に目を遣るのでありました。「一番奥に座っているのが制作部主任の山尾登君」
 この間に自分の席に戻っていた黒カーデガンの男が、ニコやかな顔で頑治さんに、先程の片久那制作部長同様に軽く頭を下げて見せるのでありました。
 男が顎を引くようにして頭を下げたので頑治さんもお辞儀を返すのでありました。
「真ん中に座っているのが那間裕子君」
 真ん中の女性も頑治さんに向かって少し頭を縦に動かすのでありました。こちらは無愛想顔、と云うのか或いは、無関心顔でありましたか。ショートヘアで目鼻立ちが大きくて顔の上下左右比も整ってはいるけれど、だからと云って決して美人と云う訳ではなくて、それはそのプライドの高そうな険相の故であろうと思われるのでありました。
「向こうの端に座っているのが均目志信君」
「均目です。よろしくお願いします」
 三人目はネクタイの上から生えている細くて長い首が最初に目に付く、如何にも華奢な身体付きの男で、顔立ちにも何処となく気の弱そうな風情が漂っているのでありました。しかし頑治さんに発した挨拶の声はなかなかに大きく歯切れが良いのでありました。
「唐目です。こちらこそよろしくお願いします」
 この均目さんが今まで逢った社員の中で最も若そうであるし、性格に圭角がなさそうな感じもして、頑治さんとしては安心感を声に含ませて答礼するのでありました。
(続)
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