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あなたのとりこ 17 [あなたのとりこ 1 創作]

 上の事務所に戻ると、席に座っている土師尾営業部長の横に立っている、土師尾営業部長よりは若く、頑治さんよりは年嵩に見える男が頑治さんの方に顔を向けて手招きするのでありました。男は紺のズボンに紺のネクタイを締めて、黒いカーデガンを羽織っているのでありました。頑治さんは男に近寄って行くのでありました。
「下でいきなり梱包を手伝えって、刃葉君に云われたのかい?」
 座っている土師尾営業部長の方が男より先に頑治さんに訊くのでありました。
「はいそうです」
「刃葉君には業務の仕事を教えてやれって指示したんだけど、そう云った事は何か刃葉君の方から説明があったのかい?」
「いえ特には。梱包とかやったことがあるかって、先ずそう訊かれまして」
 頑治さんがそう応えると、土師尾営業部長は下で刃葉さんがしたような舌打ちをして見せるのでありました。この舌打ちも頑治さんに対してではなく、刃葉さんに対しての苛々からでありましょう。何やら社員間で舌打ちばかりしている会社のようであります。
「僕が指示したのはそんなんじゃなくて、業務仕事のあれこれとか倉庫にある商品を見せて遣れと指示した心算だったんだけどねえ」
 土師尾営業部長はもう一度舌打ちするのでありました。「唐目君も未だ仕事の右も左も判らない訳だから、そう云って業務仕事について先ず説明を求めれば良かったのに」
 土師尾営業部長は頑治さんに冷ややかな目を向けるのでありました。
「はあ。しかしそう云われましても、・・・」
「そりゃ無理ですよ!」
 ここで横の男が声を発するのでありました。「今日来たばかりの人が倉庫に連れて行かれて、いきなり梱包を手伝えって云われれば、先ずそれに従うしかないでしょう。唐目君に今そんな意志表示を求めると云うのは、無理と云うより無茶ですよ」
 男がやや強い語調で捲し立て終ると、自分の席に座って今まで黙って帳簿を付けていた甲斐計子さんがクスっと笑うのでありました。
「まあ、それはそうだけど。・・・」
 土師尾営業部長は男からおどおどと目を逸らすのでありました。これはつまり土師尾営業部長が、頑治さんの事を選りに選って刃葉さんに託した自分の迂闊さを認めるのが嫌さに頑治さんに発した的外れな言葉を、黒カーデガンの男に正面から諌められたと云った構図でありますか。頑治さんとしては多少胸がすく思いでありました。
「じゃあ唐目君、こっちに来てくれるか。制作部関係の仕事を説明しておくから」
 黒カーデガンの男が一度手招きするような仕草をして、スチールの棚で仕切られた部屋の奥の方へ頑治さんを連れて行こうとするのでありました。頑治さんはチラと土師尾営業部長の顔を窺うのでありましたが、不愉快そうにソッポを向いているだけで、黒カーデガンの男の行為に対して特段の横槍は入れないのでありました。
 棚は横長の引き出しが重なった大型のマップケースでありました。その前には大きなライトテーブルが置いてあるのでありました。
(続)
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