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あなたのとりこ 3 [あなたのとりこ 1 創作]

 頑治さんは改めてそんな確認をされて何となく恥じ入るように頷くのでありました。考えてみれば己が吐いた事とは云え、何とも虫の良い、職探しをする者としては慎に不埒な戯れ言のような条件を出したものであります。普通なら呆れられて叱りつけられる、或いはその了見違いをこんこんと説教されて当然の、不謹慎窮まる条件でありましょう。
「こちらとしてもそんな無闇な条件の就職先をあれこれ探していたところでしたが、竟昨日、そんな唐目さんの条件に適いそうな会社から求人が来たのです」
「ほう!」
 そう聞いて頑治さんの方が驚くのでありました。
「但し、上司が冗談や洒落の判る人かどうか、と云う点は確認出来ていませんが」
「ああ、成程。で、その奇特な会社とは、どう云った按配の会社なのですか?」
「ギフト業、と謳ってあります」
「ギフト業とは、一体どんなような業なのでしょう?」
「結婚式の引き出物とか、企業の周年記念品とか販売促進用の品とか、或いは旅行先の観光地のお土産品なんかを取り扱う会社のようですね」
「旅行のお土産、とか云うと例えば観光地の名前の入ったキーホルダーとか、木刀とかペナントなんかを製造している会社でしょうかね?」
「自社で製造している物もあるようですが、扱っている殆どの商品は、他の会社なり製造元から仕入れているようですけどね」
「従業員はどのくらい居るのでしょうか?」
「社長も入れて十二人、となっていますな」
 田隙野氏は手に持っている求人票を見ながら応えるのでありました。「ええと、序に云って置きますが、募集職種は配送及び倉庫業務となっていて、要するに商品を製造元から引き取って来て管理したり、それを配送したりと云った仕事が主ですね。まあ、商品管理の帳簿を付けたりする事はあるでしょうが、概ね小難しい仕事はないと思われます」
「頭脳より力仕事、と云った感じでしょうか?」
「ま、そうですかな。ところで唐目さんは体力には自信がありますか?」
 田隙野氏は頑治さんの体つきを値踏みするような目で見るのでありました。
「頭の方は至って頼りないですが、そちらの方は些か自信があります」
 頑治さんは右腕の上腕二頭筋の力瘤を作って見せるのでありました。
「おお、これはなかなか好都合な力瘤をお持ちで」
 田隙野氏は真顔で大袈裟に感心して、数度頷くのでありました。
「いやあ、それ程でも」
 頑治さんは腕を曲げて力瘤を萎ませないように保持した儘、何となくぎごちない動作で照れ笑いながら頭を掻いて見せるのでありました。
 この後、給料やら就業時間とか有給休暇日数とかの待遇面を縷々述べてから、田隙野氏は頑治さんの顔を覗きこむのでありました。
「どうです、この会社に面接に行ってみますか?」
(続)
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