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お前の番だ! 596 [お前の番だ! 20 創作]

「外連の技、ですか。・・・」
 万太郎は何となく納得し難いと云う表情をするのでありました。「常勝流に伝わる天下無敵の必殺技、ではないのですね?」
「違うな」
 是路総士はあっさりと肯うのでありました。「若しそう云う技があるのなら、その技を門下が習得出来るように稽古体系が編まれる筈だ」
「余りにも危険なので、日頃の稽古からは除外されていると云うのでもないのですか?」
 万太郎の質問に是路総士は戯れ言に対するの笑いを返すのでありました。
「まあ、秘伝技に対してそう云う印象を持たれるのは、こちらの願ってもいない有難い勘違いでもあるわけだが、そんな魔法のような技術があるわけがない事は、真摯に稽古に打ちこんでいる者なら容易に判ると云うものだ。要するに神秘であるのを利用して、ある種の脅威を相手に抱かせる事が出来れば、それが秘伝の存在理由と云う事になろうよ」
「詐術、と云う事でしょうか?」
「そう云う風にも云える」
 是路総士は無表情で頷くのでありました。「勝負と云う点で考えれば、一度はその秘伝は相手に通用するかも知れないが、二度は通用しない」
「だから決して使ってはいけない、と云う事ですか?」
「そうだ。秘伝とは途轍もなく精妙な技でも、この上もなく頼りになる技でも、無敵の神通力でもない。意表を突く技ではあるが、しかし今云ったように、それは二度は通用しない技でもある。普段稽古している常勝流の技術を磨きに磨く方が、恐らく確実に強くなれるだろうし、そのような者に対して秘伝技はおいそれとは通用しないだろう」
「ああそうですか。・・・」
 万太郎は些か拍子抜けするのでありました。しかし考えてみればそんなあっと驚くような秘術があるのなら、効率の点からも、日頃の地道で地味で武道家の心胆や体を創る稽古なんぞは必要ないでありましょうし、時間の無駄と云う事になるでありましょう。
 しかし稽古者が地道で地味で心胆や体を錬る稽古を十年一日の如く続けているのは、そちらの方が実は強さ或いは上達と云う点に於いて、実質を得た稽古であるからなのでありましょう。神ならぬ身ならば、それは当の当然なのかもしれません。
 万太郎は八王子の洞甲斐先生の事をふと思い浮かべているのでありました。そう云えば洞甲斐先生は武道から足を洗ったようでありますが、今頃どうしているのやら。・・・
「最近はその秘伝の絡繰りをちゃんと解明して、稽古の体系を科学的に捉え直して精進している打撃系の武道もあると、興起会の田依里君から聞いた事がある」
「ああ、それは僕も聞いた事があります。確か来間辺りはその会派の人が出している本を何冊か、田依里さんから借りて読んでいる筈です」
「ほう。流石に研究熱心な来間だけの事はある」
「研究熱心は認めますが、その影響からかあれこれ無用な気揺らぎがあって、来間はどうも最近、稽古に直向きさが多少不足しているような気がします」
(続)
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