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お前の番だ! 552 [お前の番だ! 19 創作]

 是路総士にすればあゆみからその言が出るかも知れないと云うのは、予め想定の内であったようでありますか。是路総士はあゆみから徐に視線を外すのでありました。
「ではあゆみは、宗家の継承問題に関してどのような考えを持っているのか?」
「古武道の世界は旧態を尊ぶ風習があるから、女のあたしが宗家になるのは、どこか不自然な印象だと思うのよ。例えあたしがお父さんの一人娘であっても」
 あゆみはそう云ってから自得するように一つ頷くのでありました。「だから宗家は万ちゃんに継いで貰う方が、色んな点で何かと落ち着きが良いと思うの」
 このあゆみの言葉に、横に座っている万太郎の方が驚くのでありました。あゆみが宗家を継ぐ意思が薄いのは前から知ってはいたのでありますが、その代わりに自分にお鉢が回って来るとは、その言葉を聞くまでは迂闊にも考えだにしなかったのでありました。
 しかしあゆみの他から適当な人物を探すとなると、鳥枝範士や寄敷範士では、失礼ながら薹が立ち過ぎているし、花司馬教士は総本部の生え抜きではないし、況してや来間ではそう云った蓋然性は全く以って低いのであります。そうなれば確かに、あゆみの婿になる自分が一番適当と云えばそう云う判断になるのでありましょうか。
 それにしても万太郎にとってそれは、あまりにも唐突なアイデアと云うものでありましたか。その辺にちっとも思い到らなかったのは、あゆみの意を勝ち得た事だけに頭の中が煮え滾っている今の万太郎には、致し方ない事と云えなくもないでありましょうか。
 是路総士が目を剥いて唖然としている万太郎を見るのでありました。
「折野、あゆみはそう云っているが、お前はどう考えるか?」
「いやあ、ぼ、僕が宗家を継ぐと云うのは、・・・」
 万太郎はたじろぎを隠さずに何とかそれだけ云うのでありました。
「不都合か?」
「不都合とか好都合とか云うより、畏れ多いと云うのか大任過ぎると云うのか、・・・」
「あたしにだって畏れ多いし、大任過ぎるわよ」
 あゆみが万太郎の方にゆっくりと顔を向けるのでありました。その動きに釣られるように万太郎もあゆみの顔を見るのでありましたが、万太郎の魂消入った表情が余程可笑しかったようで、あゆみは思わず出て仕舞う不謹慎で無関係な笑いを隠すために口元を急ぎ掌で隠して、しかし結局は我慢し切れずに少しだけ吹くのでありました。
「いやまあ、それはそうかも知れませんが、しかし僕は血縁と云うわけでもないですし、是路家にとっては、云わば全くの余所者ではないですか」
「でも、あたしのお婿さんになってくれるんでしょう?」
「はい。それはもう間違いなく!」
 万太郎は、そこは力強く頷くのでありました。
「だったら、全然余所者なんかじゃないじゃない」
「しかし血と云うものが、・・・」
「まあ、武道の世界では婿養子が道統を継ぐと云う前例がないわけでもない」
 是路総士がそんな事を云い出すのでありました。
(続)
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