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お前の番だ! 544 [お前の番だ! 19 創作]

「このあゆみさんの闖入で殺伐とした場の空気が、一挙に変わったように感じました。僕自身も何やらフツと緊張の糸が切れたような具合でしたね」
 万太郎はまたあゆみの方に顔を向けるのでありました。
「しかし云ってみれば、洞甲斐さんの直弟子二人はあゆみ先生の突然の出現で、折野先生に痛い目にあわせられなくて済んだと云う事になりますか」
 花司馬教士がやや拍子抜けしたような物腰で云うのでありました。
「そうすると折野、威治君や洞甲斐さんに対しては、何も手出ししなかったのだな?」
 是路総士が訊くのでありました。
「押忍。まあ、お二人には端から何も手出しする心算はありませんでしたし」
「向こうから仕かけて来ない限り、と云う事ですよね?」
 花司馬教士が話しに割って入るのでありました。「事の序に二人にも、真摯に修行に努めた武道家と、体裁や大向こう受けを狙ってばかりの怠け者武道家気取りとの間の実力差を、グウの音も出ないくらいに、厳しく思い知らせてやれば良かったのですよ」
「いやまあ、そうもいきませんし」
 万太郎は花司馬教士に苦笑を返すのでありました。
「で、その後はあゆみ共々引き上げて来たと云う次第か?」
 万太郎はそう言葉を継ぐ是路総士に顔を戻すのでありました。
「そうですが、しかしそんな威圧的な面ばかりでは総士先生に云われた、若先生の心服を得てくると云う課題は果たせそうにありませんでしたから、無断ではありますがこれは総士先生のお気持ちと云う事で、これまでの態度を反省して総本部にやってくるのなら、総士先生は喜んで若先生を迎える心算でいらっしゃる、等とその後に生意気を云って仕舞いました。総士先生のお名前を勝手に持ち出したりして慎に申しわけございませんが」
「いや、お前の斟酌通り、確かにそれは私の、真意ではある」
 是路総士は万太郎に掌を横にふって見せるのでありました。
「事を荒立てるなと云う命を守れなかった点、それに全権委任と云う言葉を頂いてはおりますが、総士先生のお気持ちを勝手に創作したような言辞を弄したと云う点で、僕は総士先生の期待に、ちゃんと添う事が出来なかったように思います」
「ま、致し方ないところもある」
 無表情ながらも是路総士の語調は、万太郎を労うような柔らかさでありました。その辺がお前の精一杯であろうと、暗に云われているようにも聞こえるのでありましたが。
「依って結局、若先生と洞甲斐先生の心服を得る事は、竟に出来なかったと思います。総士先生のご意向に応えられなかったのを、僕は申しわけなく思っています」
 万太郎は頭を下げるのでありました。
「どだいあの二人の心服を得るなんという仕業は、無理な話しと云うものですよ。端からそう云う感受性を持ちあわせていない二人なのですからね。充分畏れさせ、たじろがせたと云うだけで、折野先生は役目を立派に果せたとのだと私は考えますね」
 花司馬教士が慰労してくれるのでありました。
(続)
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