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お前の番だ! 531 [お前の番だ! 18 創作]

 大きな掌は肩を掴んで後ろに引き倒そうと狙っていると読んだ万太郎は、引きの入る寸前に、右膝を軸に自ら体を開いて相手の動きにあわせて後ろに向き直るのでありました。見ればそれは予想通り、しくじり兄弟のずんぐりむっくりの方でありました。
 動きに出遅れて万太郎の体を引き倒す事の出来なかったずんぐりむっくりは、どうやって万太郎に自分の力が往なされたのかが判らないようでありました。ずんぐりむっくりは目の前に姿勢の崩れもなく正坐の儘無表情に自分を見ている万太郎の顔を、分厚く腫れた上下の瞼の奥に半ば隠れた眼で、戸惑ったように見ているのでありました。
 そこにずんぐりむっくりの動きの空白が発生するのでありました。その虚に乗じて万太郎が空かさず右膝から一歩大きく膝行しながらその顎を下から掌底で鋭く突き上げれば、彼の者は体を仰け反らせてあっさり仰向けに転倒して仕舞うのでありました。
 肩を掴んだ儘のずんぐりむっくりの右腕に顎を仕留めた掌を素早く移動させてその肘を伸び切らせると、万太郎は圧迫をかけて極めるのでありました。ずんぐりむっくりは肘の痛みに耐えかねて万太郎の誘導通り横にゴロリと反転して俯せになるでありました。
 万太郎が肘肩の極めを緩めずにその腕を背中にきつく畳めば、まあこれで一丁上がりであります。一丁上げて周りを見回すと、万太郎を囲む全員が立ち上がっているのでありましたが、皆及び腰でその場で茫然と突っ立っていると云う態でありました。
 万太郎が仕上げにずんぐりむっくりの肘の屈曲を限界域まで強めると、決定的に破壊はしない迄も、その肘は手応えとして暫くの間は使いものにならない程度に極まるのでありました。その一瞬、ずんぐりむっくりは大袈裟な悲鳴を上げるのでありました。
 皆が立ち上がっているのに自分だけ座っていると云うのも何やら無愛想と云うものだから、万太郎はゆっくりと立つのでありました。万太郎を囲む輪が、その万太郎の立ち上る動きにあわせて、臆するようにやや広がるのでありました。
 万太郎は立った後に一渡り皆の顔を見回すのでありました。ほぼ全員が動揺を隠せないで固まっているのでありましたが、しくじり兄弟の片割れのノッポだけは未だ目に意志があって、それは敵意に満ちた眼光を万太郎に注いでいるのでありました。
 万太郎はノッポの顔に半眼に開いた目を固定するのでありました。次に何か仕かけてくるとすれば、屹度この男以外ではないでありましょうから。
 万太郎に見入られた坊主頭のノッポは、ややたじろいだ色をその剥いた目に浮かべるのでありました。しかし自分の実の兄だか弟だかが酷い目に遭わされたと云うのに、ここで手出しも何もしないで気後れした儘であるのは、これは麗しき兄弟愛に悖ると云うものだし、自分達兄弟を呼んだ洞甲斐氏の期待にも背くとすぐに覚悟したようであります。
 意を決したような表情をして、ノッポは万太郎の方にじわりと一歩踏み出すのでありました。万太郎は身じろぎ一つせずにそれを見ているのでありました。
 万太郎の異様な静けさを警戒して、ノッポの顔に逡巡が浮くのでありました。何かしらの、突貫するきっかけを待っていると云うところでありましょうか。
 万太郎は横に垂らしていた右腕を無精そうにノッポの方に差し出すのでありました。それから掌が上を向くように、その腕をこれもゆっくり半回旋させるのでありました。
(続)
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