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お前の番だ! 518 [お前の番だ! 18 創作]

 あゆみは顰め面をして懸念を表明するのでありました。
「僕もそう思います。第一に向こうを説得する自信がありません。それは法的にとか道理とかの面では看板から、常勝流、の文字は外させる事は出来るでしょうが、心服、となるとこれは僕では大任過ぎる気がします。お二人はお歳も年季も僕より上ですから」
万太郎はあゆみを渋面で一直線に見るのでありました。万太郎のその視線にあゆみは少したじろいだのか、見えるか見えないか程度に瞳を動揺させるのでありました。
「あたしが一緒に行こうか? まあ、あたしじゃ頼りにならないけど」
「それは有難いですが、・・・」
 万太郎は一瞬縋るような目つきをするのでありましたが、すぐにそれでは余りに情けなかろうと思い直して、瞬きを一つしてその喜色を拭うのでありました。「しかし、それでは総士先生のご意向からは外れて仕舞うように思います」
「でも、これは注連ちゃんの情報だけど、洞甲斐先生の処には相撲上がりの体の大きなお弟子さんとか、これも大柄な、前にプロレスの選手をしていた人とかが居るらしいし、若しも話しが拗れでもしたら、そんな人達が前に出てくるかも知れないわよ」
 万太郎にはこれは初耳でありました。洞甲斐氏本人は知っているのでありましたが、その弟子については逢った事もないし、何も情報としては得ていないのでありました。
 しかしそれにしても、来間は何につけても良く事情に通じているヤツであります。来間の情報源と云うものは、一体どういう具合になっているのでありましょうか。
「僕がその連中に恫喝されるとか、或いは危害を加えられるかも知れないと、つまりあゆみさんとしては心配してくれているのでしょうかね?」
「まあ、誰が来ようと、まさか万ちゃんが後れを取る事はないとは思うけど、でも、万が一って事もあるし、複数で事に当たる方が何かと無難なのじゃないかしら」
「それはそうでしょうが、しかし今回は僕のあれこれの力量を総士先生がお試しになっているような気もしますし、そうだとするならここは一番、僕が単独で乗りこむべきかと考えます。まあ、さっきも云いましたように、上手く収める自信はないのですが」
「でも、・・・」
 あゆみは万太郎に対する体裁も考えず、憂色を隠そうともしないし、寧ろ一層濃くするのでありました。「でも、万ちゃんに若しもの事があったら、あたし、困るわ。・・・」
 あゆみはそう云って俯くのでありました。「何かあたし、急に胸騒ぎがしてきた」
 あゆみはすっかり落ち着きを失くしたように、コーヒーカップをせわしなさそうな手つきで口に運ぶのでありました。あゆみの拍動の変化が万太郎にも伝わるのでありました。
 あゆみのこんな様子を見て、万太郎としては満更悪い気はしないのでありました。あゆみにこうまで直截に案じて貰えるとは、思ってもみない事でありましたから。
 しかしこのあゆみの反応なんと云うものは、些か唐突で大袈裟に過ぎるような気もするのでありました。単に万太郎が威治宗家と洞甲斐氏に看板から、常勝流、の文字を外してくれと通告に赴くだけだと云うのに、事態が悪く運んだ場合の事のみを偏頗に想定して、あゆみがそんなに思いつめた表情をする必要はないようにも思うのであります。
(続)
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