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お前の番だ! 516 [お前の番だ! 18 創作]

「必要以上に事を荒立ててはいかん。しかし威治君にも洞甲斐さんにも己の無神経と無責任をしっかり納得させて、その上で恥じて看板から、常勝流、の文字を自ら外させるだけの威と説得力は要る。無闇な威圧ではなく二人の心服を得るような諭しをしてこい」
 この是路総士の言葉に万太郎はすっかり悄気るのでありました。それ程の威と説得力がある筈もなく、況や二人の心服を得る等とは以ての外と云えるでありましょう。
「何とも、僕には自信がありませんが。・・・」
「そう云わんで、やってみろ」
 是路総士は微笑むばかりで、万太郎の及び腰に全く取りあおうとしないのでありました。これは総本部道場長補佐としての自分の差配の力量を試す、良いチャンスだと是路総士は考えているのかも知れないと、万太郎は是路総士の内心を忖度するのでありました。
 それにしてもこれは度を越した重任であります。是路総士の配慮と寛恕を、二人の判らんちん共にしっかり納得させる、なんと云うのは至難と云うべきでありましょう。
「総士先生の意を僕が代弁出来るとは到底思われませんが。・・・」
「いや、お前なら出来るだろう。全権委任だから何を云っても構わんし、お前のあの二人への言葉に対しては私が総て責任を負う。この任に充分耐えられると信頼している」
 こう買い被られると万太郎は益々委縮するのでありました。しかし是路総士にここまで云われて怯んでばかりいるようでは男が廃ると、万太郎は一方で思うのでありました。
「まあ、力及ばないかも知れませんが、・・・」
 万太郎は是路総士を一直線に見るのでありました。「出来るだけはやってみます」
「万ちゃんどうしたの、そんな深刻そうな顔をして?」
 師範控えの間から食堂に足取り重く戻って来た万太郎に向かって、あゆみが声をかけるのでありました。万太郎は愛想に少し笑って見せるのでありましたが、その笑いなんてえものは、屹度如何にも鯱張ったものであったでありましょう。
「いや、総士先生に難しい仕事を云いつけられたのです」
 万太郎は頭を掻きながらテーブルのあゆみと向いあう席に腰かけるのでありました。

 あゆみは万太郎が何も云わないのにコーヒーを淹れてくれるのでありました。
「ああどうも、恐れ入ります」
 自分の前にカップが置かれると万太郎はそう云って軽く頭を前に倒すのでありました。しかし何となく心ここに在らずと云った御座なりな語調でありましたか。
「何なの、難しい仕事って?」
 あゆみは今まで座っていた席に腰を下ろすと、両手で頬杖をついて、万太郎の方に少し身を乗り出すような姿勢で訊ねるのでありました。
「前にあゆみさんにはちらっと云ったと思いますが、威治先生と洞甲斐さんが八王子の洞甲斐さんの道場で新会派を立ち上げたのです」
「ああその事。愈々そうなったのね」
「まあ、それは良いのですが、その会派の名称に、些か問題がありまして。・・・」
(続)
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