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お前の番だ! 513 [お前の番だ! 18 創作]

「しかし威治前宗家としては今のところ、洞甲斐先生と組む以外に向後のとるべき行動がないように思われますが、どんなものでしょう?」
 万太郎は懸念を表明するのでありました。
「洞甲斐さんと組んだとしても、二人がこの後ずっと一緒にやっていける筈がないのは判り切っている。あの二人は武道に求めるものが違い過ぎるし、上辺は糊塗出来ても、実のところ互いに互いの指向を認めあっていると云うのでもない。寧ろ軽蔑しあっていると云える。一時凌ぎに手を組んだとしても、結局は相手に倦んで決別となるのがオチだろうよ。威治君は歳から考えても、そんな迂路でぐずぐずしている暇はないのだがなあ」
「つまりそんな洞甲斐先生と組むしかないところまで、威治さんは追いつめられていると云う事よね、云ってみれば。まあ、自分でそうして仕舞ったんだけど」
 あゆみが云うと是路総士は頷くのでありました。
「ここが実は威治君の正念場だろうが、本人はそれが判っているのかどうだか。・・・」
 是路総士は嘆息するのでありましたが、勿論判ってはいないだろうと万太郎は思うのでありました。自己省察の甘い者は往々にして現状況への認識も甘いし、徒に楽観的でもありますし、威治前宗家は真に典型的なそのタイプの人でありましょうか。
「それに傍目にも、威治前宗家と洞甲斐先生の取りあわせと云うのは、今一つ魅力的には見えません。失礼な云い方ですが、如何にも怪しそうで」
 来間が言葉を挟むのでありました。この来間の不躾とも聞こえる言葉にも、是路総士は微かに頷いて嘆息を漏らしているのでありました。
「まあ、私としては成り行きを見ているしか、今のところ術がないが」
 是路総士は猪口に残っている酒をグイと口の中に流しこむのでありました。何となくそれ以上呑む気も失せたようで、是路総士が空いた猪口を卓の上に置くその音が、どこかきっぱりと飲み終りを宣しているように万太郎には聞こえるのでありました。

 しかしこの是路総士の願いはあっさりと裏切られるのでありました。旬日も経たない或る日曜日に、威治前宗家が八王子の洞甲斐氏の道場に現れたらしいと云う報告が、件の門下生の目撃談として八王子支部の世話役から万太郎に齎されるのでありました。
 その門下生が私用で偶々西八王子駅に行った折、改札口辺で人待ちをしていると思しき、門弟らしきを二人従えた洞甲斐氏を目撃したと云うのであります。その門下生はピンとくるものがあって、暫く離れた処から洞甲斐氏を観察していると、果たして威治前宗家が改札を出てきて、それを洞甲斐氏が満面の笑みで迎えていたとの事でありますした。
 面白い展開になりそうな予感にその門下生が後をつけて見ると、案に違わず一行は洞甲斐氏の道場に足を向け、そこに上がりこんだと云うのであります。道場には他にも十人程度の洞甲斐氏の門弟であろう連中が参集していて、威治前宗家を迎えた道場では内輪で何かの式が地味に執り行われていたようだと云うのでありました。
 恐らくその式とは、威治前宗家と洞甲斐氏で創る新派の結成式であろうかと万太郎は踏むのでありました。愈々是路総士の危惧していた事態が動き出した模様であります。
(続)
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