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お前の番だ! 509 [お前の番だ! 17 創作]

 それに依れば、何でも八王子のとある居酒屋で、威治前宗家らしき人と瞬間活殺法の洞甲斐富貴介氏が、睦まじく呑んでいるのを目撃したと云うのであります。余人は居らず、二人だけでテーブルを囲んでいたとの事でありました。
 この二人の取りあわせに万太郎は意外の感を抱くのでありました。威治前宗家は洞甲斐氏をずっと以前より、まあ、自分の事はさて置いて、如何にも胡散臭いヤツと見做していて、どちらかと云うと極めて冷淡に接していた筈でありましたが。
 それがどうした按配か二人で睦まじく酒を酌み交わしていたと云うのであります。どのくらい睦まじかったのかは、伝聞でありますから万太郎としては確とは判らぬのでありますが、しかし傍目にそう見えたのはどちらも寛いだ様相をしていた故でありましょう。
 同病相憐れむとか、同気相求む、或いは、類は友を呼ぶ、なんという言葉が、先ず万太郎の頭の中に浮かんでくるのでありました。二人のどちらが声をかけたかのかは判らないながらも、恐らくはそう云ったところも屹度あるのでありましょうか。
 鳥枝範士は威治前宗家のその後に全く無関心でありましたが、是路総士は少なからず気にしているような風だったから、万太郎はこの情報を是路総士だけにそれとなく知らせるのでありました。是路総士もこの二人の取りあわせに顔を曇らせるのでありました。
「その八王子の門下生は威治前宗家と面識があるわけではないのですが、前に武道雑誌に写真が載っていた威治前宗家その人に間違いないと、そう云っておりました」
 万太郎は念のため、情報のあやふやさも云い添えるのでありました。
「あああそうか。しかしそれが本当だとすると、やや呆れた展開と云った趣だな」
 是路総士は眉宇の翳を濃くするのでありました。「しかし、すっかり何もかも失った威治君としては、捨てる神あれば拾う神あり、と云った心持ちだろうかな」
「と云う事はつまり、総士先生は洞甲斐先生の方から威治前宗家に接触してきた、と云う風に見ていらっしゃるのですね?」
「威治君は洞甲斐さんを全く買っていなかったし、扱い方もぞんざいなものだったから、どんなに窮したとしても、洞甲斐さんと共に、と云う選択肢はなかったろうよ」
「それならばどうして、洞甲斐先生のコンタクトを受け入れられたのでしょう?」
「貧すれば鈍する、と云う言葉もあるし。・・・」
 貧した威治宗家が鈍して、洞甲斐氏と云う拾う神の言葉にうかうかと乗って仕舞った、と云う風に是路総士は見ているようであります。と云う事は是路総士は洞甲斐氏を、あんまり好ましからざるところの拾う神だと思っているのでありましょう。
「洞甲斐先生が声をかけた真意と云うのは、どんなところに在るのでしょう?」
「まあ、そんなに深い理由があるわけではなかろう。精々威治君の名前をちょいと利用してやろうと云う程度だろうよ。あの人は深謀遠慮の人ではなさそうだし」
 確かに洞甲斐氏は事象の後先の行方に抜かりなく目線を走らせるタイプではなく、ちょっとした閃きに自分で興奮して、すぐに軽忽に動く人と云った印象でありますか。ご本人はその、閃き、に大いに高い蓋然性と自信とをお持ちのようでありますが。
「威治前宗家と云う名前は、未だ利用出来るだけ価値があるのでしょうか?」
(続)
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