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お前の番だ! 506 [お前の番だ! 17 創作]

「特に古武道に於いては、技や稽古法の不統一が流儀の乱れと考えますので、技術面では我々は大いに非寛容です。で、一応懸念を示したわけです」
 寄敷範士は目に鋭さを留めて田依里師範を見るのでありました。
「その点は移籍を希望してきた者に、厳に云っていただいて結構だと思います」
 田依里師範は寄敷範士に目礼して見せるのでありました。
「前の興堂派時代にしても、道分先生に教えていただいた技法と総本部の技法とは若干違った面もありました。それに対しても我を張らずにちゃんと修正する覚悟が必要です」
 技術の微妙な違いに戸惑った経験のある花司馬教士が横から云うのでありました。
「それも厳しく云っていただいて構わないと思います。総本部に移られて戸惑った経験のある花司馬先生が、今こうして総本部の技法に馴染んで、立派に指導までされていらっしゃるのですから、花司馬先生がおっしゃれば如何にも説得力があると思います」
「いやまあ、立派かどうかは判りませんが。・・・」
 花司馬教士はそう語調を落として頭を掻くのでありました。
「まあ、判りました。移籍の希望があったならば、良しなに取り計らいましょう」
 是路総士が結論として、受けあうのでありました。
「よろしくお願いいたします。これで支部の関係者の憂いも和らぐと思います」
 佐栗理事が是路総士に深めに頭を下げるのでありました。
「つきましては、私の方から、もう一つお願いがあるのですが、・・・」
 田依里師範が畏まるのでありました。「すぐにと云うのではありませんが、落ち着きましたらこの私がこちらに稽古に伺わせていただく事をお許しいただけないでしょうか?」
「ほう、田依里さんご自身が常勝流の稽古をされるのですか?」
 田依里師範の意外な一言に是路総士は口元に運んだ茶椀をその位置で静止させるのでありました。満座の目が、佐栗理事の目も含めて、田依里師範に集まるのでありました。
「今からでは遅いと云われるかも知れませんが、常勝流の技術にこのところ大いに興味が湧いてまいりまして。それに総本部の皆さんとこうしてお話しをさせていただいて、皆さんが修められている常勝流を、是非自分も習ってみたいと切に思ったものですから」
「まあ、武道と云うものは幾つになってから始めても遅いと云う事はありません。しかし田依里さんの場合は一派の長でいらっしゃるし、そう云う人が白帯の初心者に混じって一から常勝流を習うと云うのに、抵抗がおありではありませんかな?」
 是路総士が田依里師範の立場を気遣うのでありました。
「いえ、体裁など気にしませんし全く抵抗はありません。習う以上当然の事ですから」
「自分の門下生達に示しがつかなくなるのでは?」
 花司馬教士も気遣いを見せるのでありました。
「そんな事はありません。習いたいと思ったら、そう云った娑婆っ気は無関係の事です。若い時からずっとそんな風に、まあ、云ってみれば気儘に色んな武道の稽古をしてまいりましたし、私は一派の長である前に一人の探究者とし在りたいと考えておりますので」
 田依里師範のこの心根には一種の爽やかさが薫っているのでありました。
(続)
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