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お前の番だ! 501 [お前の番だ! 17 創作]

「これを或る種の潮として、威治君に関わる諸事が好転するなら良いのだが」
 是路総士がそう云って猪口を卓上に置くのでありました。「まあ、興堂流や威治君の動向については粗方判りました。それでこちらがすぐにどうこうすると云うのではないけれど、一応そう云う事情を心の隅に置いておく事は不必要ではないと思います」
 これがこの談話の何となくの締め括りの言葉となるのでありました。後は、飲み足りない一同は他愛ない四方山話しに興じながら、暫時杯を重ね続けるのでありました。

 崖上の石が一つ転がると、連鎖反応でもう一つ、また一つと別の石が転がり始めるのでありました。と云うのは威治前宗家が興堂流を退いて未だそれ程間が空かない内に、今度は興堂流会長がその職を降りたと云う話しが伝わってくるのでありました。
「武道興堂流会長、と云う役職が、実質にも名刺の飾りにも資さないと判断して、あっさり見限ったのだろうよ。それに威治の横領事件が若し将来公にでもなれば、寧ろ自分の名前に傷がつく恐れもあるので、手を切るに如くはないと判断したのだろう」
 これは鳥枝範士の言でありました。恐らく大概はそう云ったところでありましょう。
「表向きは、今次の威治前宗家の不始末の件で、会長としての監督責任が全うできなかったため、と云う尤もらしい理由からのようですが」
 万太郎がそう返すと鳥枝範士は冷笑を口の端に浮かべて鼻を鳴らすのでありました。
「彼奴はそんな殊勝らしい男なんかじゃなかろうよ。それは辞職するための体の良い方便であってだなあ、本心は早々に、そんな胡散臭い団体とは縁切りしたいと云う、自分本位の都合だけで辞めたのは目に見えているではないか」
「今まで長くその職にあったわけですから、会長としての興堂流への愛着とか、亡き道分先生への情義のようなものはなかったのでしょうかね?」
「そんなものを期待する方が無理だ。徹頭徹尾自分本位な男だよ、彼奴は」
 鳥枝範士だけではなく寄敷範士の方も同じような感想のようでありました。
「保守の政治家らしく、日本的な伝統芸能とかに漠然とした憧憬があるだけで、元々武道には無関心な人だったからなあ。道分先生との交誼も、異世界の多士済々とのつきあいが広いと云う辺りで自分を装飾しようと云う、他力本願的な魂胆の一環に過ぎなかったし、それに選挙の折に幾らかの票の足しにもなるとかの実際的理由からだっただろうから、興堂流への薄情は疾うに知れていた。引き際の尤もらしい、ある意味で無難で妥当な理由として、威治の仕出かした今回のごたごたを利用したと見るのが真面な線だろうな」
 花司馬教士もほぼ同意見でありましたが、こんな事をつけ加えるのでありました。
「あの会長は元々、道分先生の実子と云う事以外、威治を何も買ってはいませんでしたからねえ。寧ろ全くの無能者扱いで、とことん見縊っていましたね。それから、前に道分先生が亡くなられた時も会長を辞めると一旦は云い出したのですが、その時は未だ、道分興堂先生の常勝流興堂派、と云う看板に大いに魅力があったので思い止まっただけです」
「今はもう、大方魅力も失せたから、冷淡に棄てたと云う事ですか?」
「ま、冷淡に、と云うか、計算高く、ですね」
(続)
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