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お前の番だ! 500 [お前の番だ! 17 創作]

「お気持ちは充分お察しいたしますが、総士先生のご寛恕を受け取るかどうかは相手の威治次第です。威治にその気がないのなら、如何とも仕様がありません」
 寄敷範士が慰めるような事を云うのでありました。
「その通りですな。それに威治に今までの自分の非を悔いて身を慎む用意がなければ、総士先生が何か手を差し伸べられたとしても、それは単なる甘やかしになって仕舞います。それでは威治のためにもよろしくないでしょう。ここは向後の威治がどんな動きをするのかじっくり見ておくべきでしょう。寛恕を示すのはそれからでも遅くはありませんぞ」
 鳥枝範士の意見は是路総士を慰めると云うよりは、威治前宗家に対する冷淡と不信感からのもののように万太郎には見えるのでありました。
「威治君は私に何か援助を求めてくるでしょうかな?」
 是路総士はそう云ってあれこれ考えるような顔をするのでありました。
「それはどうですかな。道分先生の遺産を無駄に食い潰して、どうにもこうにも切羽つまったら、ひょっとしたら金の無心になんぞ来るかも知れませんな」
「いやそれはなかろうよ」
 寄敷範士が猪口を持った反対側の掌を、鳥枝範士に向かってひらひらと横に動かすのでありました。「意地っ張りで人一倍体裁屋の威治の事だから、どんなに窮しても総士先生にはそんな情けない姿は見せまいとするだろう。色々経緯があって自ら袂を分かった常勝流に、結局浅ましく屈服したと思われるのは、彼奴のプライドが許さんだろうからねえ」
「道分先生の御曹司であるところをちやほやする連中が未だ居る内は、それは彼奴のプライドも立っていられただろうが、その代表格の興堂流会長にきっぱり見捨てられたのだから、もうそろそろ昏倒してもおかしくない。意地っ張りで体裁屋の小人が昏倒すると、取り乱して支離滅裂に何を仕出かすか知れたものじゃないから、ないとも限らんよ」
 鳥枝範士のこの言にも、威治前宗家に対する心底からの侮りが満ち溢れているのでありました。そう云う鳥枝範士の心機は前から知れた事なのではありましたが、それは父君の道分範士が偉大であっただけに、返ってその分余計にその子たる威治前宗家が不幸にも割を食っている所為かも知れないと、万太郎は考えるともなく考えるのでありました。
「威治の血筋や名前を評価する連中、或いはそれを未だ利用価値ありと考えてちやほやする連中なんぞは、興堂流会長の他にはもう誰も居ないのかな?」
 寄敷範士がそんな疑問を呈するのでありました。
「まあ、全く居ない事もなかろうが、少なくともその中に大物と呼ばれる者は居ないだろうよ。それに自分の隠した不埒な魂胆のために上手く利用しようとしてちやほやするだけで、本当に威治と云う存在を尊く思っているヤツなんか一人も居まいよ」
「しかし誰であれそんな連中が未だ居る限り、威治のプライドは立った儘なのだね?」
「ま、そうなるかな。しかしそのプライドそのものが如何にもショボクレたものだが」
「ショボクレていようと、プライドはプライドだから、総士先生が寛恕のお心をお持ちだとしても、未だ当分総士先生の出る幕は来そうにはありませんなあ」
 寄敷範士がそう云って猪口をグイと呷るのでありました。
(続)
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