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お前の番だ! 498 [お前の番だ! 17 創作]

 これは万太郎としては初耳でありました。来間はその辺の具体的な事情に関しては、あんまり通じてはいなかったようであります。
「その事務長とやらは威治がどこからか拾ってきたヤツじゃないのかね?」
「そうらしいが、威治ばかり良い目を見ていて自分へのお零れにはケチなところに不満だったのだろう。まあ、威治の不正を糺すと云う正義面を装ってはいたろうが、不満があったとしても今までに自分もそのお零れに与っていたわけだから、事務長のヤツは間抜けにも自分の首も一緒に締めたようなものだ。こちらの方も馬鹿丸出しと云うわけだ」
 鳥枝範士は猪口を空けた後に冷笑を口の端に浮かべるのでありました。
「身を切ってまでも、何とか威治に吠え面をかかせてやりたいと云う了見かな?」
 寄敷範士は事務長とやらの心根を忖度して見せるのでありました。
「何れにしても、品性下劣な奴原が品性下劣なすったもんだをやらかしたと云う事だ」
「で、向こうの会長は威治を呼びつけてあっさり辞めさせたと云う経緯か。まあ、懲戒処分とはしないで自主退職扱いにしたのは、勿論興堂流の体面を気遣ってと云う面もあろうが、僅かながらも威治に対して、惻隠の情を示したと云う事になろうかな」
「会長たる自分の体裁を気にしたのが九で、威治に対する惻隠の情が一だな」
 鳥枝範士はそう云って鼻を鳴らすのでありました。「要するに威治が全額弁済すると云う条件を飲んだから自主退職扱いとしたのだろう。威治にそれを飲ませるに当たって、こちらが刑事告発したらお前は監獄に入る事になるぞとか、そうなれば社会的に抹殺されるぞとか色々脅したに違いないが、それでも虚けの威治がその売り言葉を買ったりでもしたらと内心は冷や々々していたろうよ。世間に明るみに出れば会長の体面も傷がつくし」
「まあ、狸の会長だから、その辺の腹芸は心得たものだろう」
「威治なんかでは到底太刀打ち出来まいよ」
 鳥枝範士はどう云う心算か、自分の腹を掌で一つ打って見せるのでありました。
「聞くまでもないが、事務長とやらも辞めさせられたのだろう?」
「そうだな。しかしこちらへは口止め料のつもりか、幾らかの退職金を出したそうだ」
「しかし威治を裏切ったヤツだから、会長のそんな思惑も裏切るかも知れない」
「抜かりなくこちらへもたっぷり脅しをかけているだろうよ」
「成程ね。それはそうだな」
 寄敷範士は辟易の表情で頷くのでありました。
「辞めた威治君は、今はどうしているのかな?」
 今まで黙って、如何にもゆったりとした手つきで酒を口に運びながら、鳥枝範士と寄敷範士の遣り取りを聞いていた是路総士が訊ねるのでありました。
「その辺は情報がありません。今のところ自宅に逼塞しているものと思われます」
「万事に反省のない男ですから、それでもちっとも懲りずに、銀座のバーの女とやらの処に通っているのではないでしょうかね」
 花司馬教士が口を挟むのでありました。
「ま、充分考えられる事だが。・・・」
(続)
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