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お前の番だ! 491 [お前の番だ! 17 創作]

「後の先でも先の先でも構わんが、今だ、とこちらが思って技を仕かけようとした刹那、相手が不意に親愛に満ちた目でニッコリと笑って見せたら、折野はどうする?」
 是路総士は万太郎にそう訊くのでありました。
「それは多分、一瞬たじろいで、二の足を踏みます」
「それが相手の手管で、そこにつけこまれるかも知れんぞ」
「そうと判っていても、多分僕はたじろぎます」
「一瞬後に、そう云う手管だと判明しても、もう立て直す暇はないぞ」
 例えば堂下クラスが相手なら万太郎はたじろがないでありましょう。しかしこれが是路総士を始めとする格上の高位者となると、間違いなくたじろぐでありましょう。
「たじろぐかそうでないかは、相手に依って違うような気もしますが。・・・」
「生死がかかっている勝負では、誰が相手であろうとたじろいではいかんだろう」
「たじろいでも、誰よりも早く一歩引く動作に僕は自信がありまして、それを以って何とか相手の一撃目を先ずは躱します。多分、誰であろうとも」
「私が相手でもか?」
 是路総士にそう訊かれて万太郎は暫し考えるように小首を傾げて黙るのでありました。
「総士先生が相手だとしても、僕はこの必殺の一歩下がりを試みます」
「必殺の一歩下がり、か」
 是路総士は万太郎の言葉をなぞってから愉快そうに笑うのでありました。「妙な手だが、確かにタイミングを読むのに長けていて、相当にすばしっこいお前の事だから、そう云うのも案外有効かもしれんな。しかしその時点で気勢ではもう負けているから、後を立て直すのは至難の業と云える。一撃目は躱せても二撃目で倒されるかも知れない」
「それは確かにそうですが。・・・」
 万太郎は眉根を寄せて困じた表情をするのでありました。「総士先生なら、相手が不意にニッコリ笑ったとしたら、如何されますか?」
「私は、相手がニッコリ笑う前にこちらが笑うさ」
 これは是路総士なら出来るだろうと万太郎は思うのでありました。先先の先の機微を体得していて使い熟せる是路総士なら、相手が意表を突こうとしてニッコリ笑う事、或いはそこまではっきりではないにしろ、何やら胡散臭い手で意表を突こうと企んでいる気配を疾く感じ取って、対峙した時点で既に心を用意する事が出来るでありましょう。
「そうなると攻守が一瞬に逆転して、相手がたじろぐと事になりますかね。それで相手の怯みに乗じて、総士先生が先をお取りになると云う寸法ですね」
「いや、相手の及び腰に乗じて先を取る心算は更々ない」
 万太郎はそう云う是路総士の心機を読み切れないのでありました。
「ああそうですか。・・・では、その後はどうなさるのですか?」
「そう云う局面で笑う以上、私は心底から親愛の笑いを相手に送る」
「つまり、・・・勝負する事を止めると云う事でしょうか?」
「何よりも、そうなれば慎に結構と云うもの」
(続)
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