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お前の番だ! 485 [お前の番だ! 17 創作]

「それからこう云う話しも聞いておるぞ」
 鳥枝範士は続けるのでありました。「道場の女の会員にちょっかいを出して、その女を孕ませて仕舞って、裁判沙汰になるところを会長が出てきて隠密裏に事を収めたとか」
「いや、そんな話しは、僕は初耳です」
「ああそうか。これも単なる噂の類か。まあ確かに小学校低学年みたいにパソコンゲームに現を抜かしていると云うのなら、そんな色っぽい真似は威治には出来はしないか」
 鳥枝範士は妙な納得の仕方をするのでありました。
「いやしかし最近のゲームは、大人が楽しめるものもあるようですよ。それに少し前にテレビゲームが流行りましたが、あれは喫茶店なんかに置いてあったので小学生は喫茶店には出入りしません。ましてやパソコンですから子供には手に負えないかも知れません」
 万太郎はそう云いながら、そんな事はこの際どうでも良い事かと頭の隅で考えるのでありました。ここでは威治宗家が小学校低学年並に幼稚かそうでないかが問題なのではなく、宗家でありながら稽古に出ない事、それに無責任な噂が面白可笑しく、尾鰭つきで飛び交う程威治宗家の人望が地に堕ちている事が基幹の問題なのでありますから。
「まあしかし、噂話しは噂話しとして、威治は常勝流と縁を切って宗家になってから、何でもしたい放題になっていると云うのは事実のようだな」
「でも僕は寧ろ、宗家になられてからと云うもの興堂流宗家として、何もしない放題、になられているような気がしますし、そこが色んな問題の大本のように思います。まあ、僕のような者がこんな概括めいた事を云うのは僭越の誹りを免れませんが」
「成程ね。何もしない放題、ね」
 鳥枝範士はやや口を尖らせて頷くのでありました。「折野にしては上手い事を云う」
「押忍。僭越な云い方で恐懼しておりますが」
 万太郎はお辞儀して見せるのでありました。
「確かに威治は面倒な事は何でも人任せにして、自分は楽を決めこんでちっとも働かなくなっているのだろう。その癖美味しいところは自分が真っ先に手を出す。それでは人が良く云う筈もないし、在らぬ噂なんぞも立って仕舞うと云うものだな」
 鳥枝範士はまた納得気に頷くのでありました。
 この万太郎の気がかりを裏付けるような情報を来間が齎すのでありました。
「そう云えば何でも、興堂流の地方の幾つかの支部が、今後威治宗家の出張指導は断ると、連名で本部の方に申し出たと云う話しを聞きましたが」
 一日の課業が終わって内弟子部屋に引き上げてから、布団を延べる折に来間は事の序でのように万太郎に報告するのでありました。
「ほう、それは穏やかじゃないな」
「威治宗家の出張指導料が法外に高いと云うのもありますが、来るとあれやこれやの接待でかなり金銭の支出を強いられるから、堪ったものではないと云うわけです。それに指導と云っても威治宗家のは、今の興堂流の技の体系とは違う旧態依然のもので、普段の稽古に全く役立たないから、態々来て貰っても意味がないと云う事らしいです」
(続)
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