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お前の番だ! 479 [お前の番だ! 16 創作]

 田依里筆頭師範が如何にして興堂流の指導員になったのかは、花司馬教士から多少は蓋然性のある情報を聞く事が出来るのでありました。花司馬教士の言に依ると田依里筆頭師範は威治宗家の、大学時代の上級生に当たる人なのだそうであります。
「ゼミか何かで一緒だったのか、それとも何らかの縁で遊び友達になったのか、或いは威治が道分先生の息子だと云うところに田依里氏が興味を持ったのか、その辺は窺い知れませんが、居酒屋で飲んだ時に田依里氏からそう云う話しを聞きましたよ」
「成程、大学の先輩後輩の仲ですか」
「田依里氏はその頃は空手一辺倒で、常勝流にはそんなに興味があったわけではないけど、道分先生の名前とかその活躍は良く知っていたと云う事です」
「その辺の縁で威治宗家が是非指導員にと声をかけたのですかね?」
「直接には会長の線が決定打でしょうが、そんな因縁も無関係ではないでしょうね」
「丁度良い機会で、道分先生の常勝流を齧る事が出来ると考えたのでしょうかね?」
「それは本人も云っていましたね。大学時代はそうでもなかった常勝流への興味が、合気道や居合道をやってみて、俄かに昂ってはいたのだと」
「しかし今の興堂流には、道分先生の技を本格的に受け継ぐ人は居ないのでは?」
 万太郎は疑問を表明するのでありました。
「確かにそうですね。板場はもう居ないし、威治じゃ全く心許ない。況や堂下ではどう仕様もない。まあ、板場が居たとしても道分先生の技を再現するのは無理でしょうが」
 花司馬教士は情けなさそうな顔をするのでありました。
「花司馬先生が居れば、田依里さんの思いも叶ったでしょうがね」
「いやいや、自分だってとてもとても」
 花司馬教士は顔の前で掌を何度も横にふって見せるのでありました。「田依里氏にもその辺を云ってはみたのです。威治の技を道分先生の技と勘違いしてはダメだとね」
「すると田依里さんはどんな顔をされましたか?」
 その折の田依里筆頭師範の反応に万太郎は興味を惹かれるのでありました。
「それはそうかも知れませんが、しかしまあ、一端はご教授していただいております、等とやや苦しそうに云っていましたね」
 まあ、無難な応えと云うべきでありましょうか。
「ところで花司馬先生、田依里氏に興堂流に戻らないかと誘われませんでしたか?」
 万太郎は冗談に紛らわしてそう聞いてみるのでありました。
「いや、そう云う気配は全く感じられませんでしたね」
 花司馬教士は至極真面目に応えるのでありました。「それはそうでしょう。どうせ自分の事を威治は周囲にぼろくそに云っているでしょうから、そんな自分を宗家の手前、リクルートするわけにはいきませんでしょうよ」
「威治宗家は花司馬先生の事をぼろくそに云っているのですか?」
「漏れ伝わるところに依れば、そうみたいですな」
「それはお門違いでしょうに」
(続)
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