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お前の番だ! 477 [お前の番だ! 16 創作]

 それ以上の探索は他流派の内部事情に属する事柄でありましょうから、万太郎の方も控えるのでありました。洞甲斐先生が早晩興堂流を離れる事になろうと云うのは当然予想される結果の内でありましたし、その予想通りに事が進んだと云うだけであります。
「洞甲斐先生の時は、確か他の曜日に体育館を使用されていたようですが?」
 万太郎は話題を少し変えるのでありました。
「はい。しかし本部の指導となった以上本部の都合もありますし、今までの週二回の稽古を週一回として曜日を変えたのです。まあそれが偶々、常勝流の皆さんが稽古される曜日と同じとなったので、それで今日、折野先生にご挨拶出来たと云うわけです」
「興堂流の稽古は畳敷きの道場を使わないで大丈夫なのですか?」
「ええ。技術としては旧興堂派以来の投げ技も固め技もありますが、打撃とか蹴り技の稽古の方が主になりますから、板張りの処でも構わないのです」
 そこで田依里筆頭師範は、あああそうかと云うような顔をするのでありました。「ああ、向後我々は畳敷きの武道場ではなく、板張りのホールの方を使用いたしますので、常勝流の皆さんとの稽古場所の取りあい等は決して致す心算はございませんから」
 別に万太郎はそこを心配して先の質問をしたわけではないのでありましたが、まあ、そう聞いて些か安堵も覚えるのでありました。
「ああそうですか。それは助かりますね」
「この先は、友好的におつきあいさせていただきたいと考えておりますから」
 田依里筆頭師範はそう云って律義らしく万太郎にお辞儀して見せるのでありました。しかし田依里筆頭師範がそう云う了見であったとしても、興堂流が常勝流の名前を棄てた経緯から鑑みて、威治宗家もそうであるとは限らないと万太郎は考えるのでありました。
 それならば田依里筆頭師範の今日の万太郎への接触は、威治宗家の意を体したものと云うのではなくて、田依里筆頭師範の独断と見た方が良いでありましょう。田依里筆頭師範と威治宗家の間に、ひょっとしたらここに来て隙間風のようなものが吹き始めたのかも知れないと忖度するのは、果たして万太郎のお先走りでありましょうや。

 話しに依ると、後日八王子に出張指導に行った寄敷範士も、興堂流の田依里筆頭師範から挨拶を受けて、その後に万太郎と同じように居酒屋で持て成されたと云う事でありました。花司馬教士からもそう聞くのでありましたし、偶々鳥枝範士の急遽の拠ない欠席に依り一人で初めて指導に行った来間も、流石に結果として教士補の身分で居酒屋での接待は遠慮したものの、田依里筆頭師範からの丁寧な挨拶は受けたと云う事でありました。
「威治とは違って、なかなかしっかりとした人物と見たぞ」
 寄敷範士に依る田依里筆頭師範の評判は上々のようでありました。
「助手として来ていた堂下が、すっかり頼りにして懐いているようでしたね」
 これは花司馬教士の感想であります。
「自分如きが云うのは烏滸がましいですが、誠実そうな方のようにお見受けしました」
 来間の印象もなかなかに好意的なものでありました。
(続)
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