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お前の番だ! 476 [お前の番だ! 16 創作]

 三人は体育館近くの居酒屋に席を移すのでありました。注文したビールを待つ手持無沙汰の間に、万太郎は対面に座る田依里筆頭師範に言葉を向けるのでありました。
「先程そこの堂下さんに伺ったところ、洞甲斐先生は興堂流を辞められたとか」
 万太郎は田依里筆頭師範の横に居る堂下の方をちらと見るのでありました。
「折野先生、以前の儘の、敬称略、でお願いします」
 空かさず堂下が、頭を掻きながら万太郎に決まり悪そうな笑いを送るのでありました。
「折野先生、どうぞ何のお気遣いもなく、前通りに呼び捨てにしてやってください」
 田依里筆頭師範が云って万太郎に軽く低頭して見せるのでありました。
「ああそうですか。では向後はそうさせていただきます」
 万太郎もお辞儀を返すのでありました。丁度そこへつき出しの小皿と伴にビールの大ジョッキが運ばれてきたので、三人は初対面及び再会の挨拶代わりに、伏し目をしながら夫々のジョッキを目線の高さまで持ち上げて見せるのでありました。
「洞甲斐先生に関しては、なかなか本部の指示を尊重していただけませんでしたし、それより何より、八王子の支部が本部派の門下生と洞甲斐先生派とに分裂したような状態になって仕舞いまして、本部派の方が多数だったために洞甲斐先生の方が身を引かれたと云う形になったのです。それで私共が新たに指導に乗り出したと云う経緯です」
 田依里筆頭師範が大雑把に説明するのでありました。
「立ち入った事をお聞きするようですが、洞甲斐先生は今の田依里先生のご説明よりはもっと穏やかならぬ形で興堂流を辞められたと、先程堂下から聞いたのですが?」
 万太郎はやや遠慮がちにそう訊くのでありました。
「洞甲斐先生は除名になったと、さっき自分がもう云って仕舞いましたよ」
 堂下が横の田依里筆頭師範の方に首を捻じるのでありました。
「ああそうなのか」
 田依里筆頭師範は万太郎に向かって苦笑って見せるのでありました。
「まあ、内部の事として話し難い事でしたら、これ以上伺う事は慎みますが」
 万太郎はその苦笑いの謂いを察するように云うのでありました。
「私としましてはそう云う荒けない仕方よりは、例えば分派とか云う結果を模索もしたのですが、宗家の、破門と云う意向がどうしても覆せませんでしたので。・・・」
 と云う事は、洞甲斐先生の除名処分は威治宗家の強い意と云う事になるでありましょうが、洞甲斐先生は威治宗家の勘気を招くような何事かを仕出かしたのでありましょうか。それとも洞甲斐先生の興堂派に於ける在りよう自体に、威治宗家が苦々しさを覚えていて、八王子の分裂騒動を除名の方便として使ったと云う事なのでありましょうか。
「洞甲斐先生は以前からあのようなお方でしたから、興堂派でも浮いた存在であったろうとは僕にも想像出来ます。その辺が破門の実の理由と云うところでしょうかねえ?」
 万太郎はそう云いながらジョッキを口に運ぶのでありました。
「まあ、流派の実体を守るための宗家の苦渋の判断、とも概観出来るでしょうか」
 田依里筆頭師範はやや無理をするような表情で、そう総括して見せるのでありました。
(続)
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