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お前の番だ! 467 [お前の番だ! 16 創作]

「成程ね。・・・まあ、私の技術が見た目は常勝流から外れているとしても、視点を変えて、組織運営の上では、私は大いに常勝流に貢献するつもりでいるのだがなあ」
 洞甲斐先生は今度は搦手から未練を示すのでありました。
「そうであるとしても、先程申し上げた技法の統一と云う流派の根幹から、折角のお申し出ではありますが、このお話しはきっぱりお断りさせていただくと云う事です」
 万太郎はあくまでつれないのでありました。
「私はこう見えてもなかなかの有名人ではあるのだよ。その私が常勝流に在籍すると云う事は、常勝流にとっても損はないし利用価値もあると思うのだがねえ」
 洞甲斐先生はそれでもしぶとく自分の売りこみに精を出すのでありましたが、万太郎は思わず口の中のビールを吹き出すところを寸でのところで堪えるのでありました。それは確かに或る意味で有名人ではありましょうが、しかしその名前を聞いた大凡の者に、一様に口の端に冷笑とか憫笑とかを浮かべさせて仕舞う類の有名人でありますかな。
「洞甲斐先生がどんなにご高名でいらしたとしても、あくまでも武道流派である常勝流は技法の統一と云う事を第一と考えます」
 万太郎はそう云いながら、顔には出さないまでも胸糞悪さを覚えるのでありました。
「ああそうかね。私如き者なんか、常勝流には要らんと云うわけだ」
 洞甲斐先生は不貞腐れたようなもの云いをするのでありました。
「目指すものが、我々と洞甲斐先生では全く違うと云う事です」
「そう云う云い方は、まるで君が常勝流を代表しているような云い草だな」
 洞甲斐先生は万太郎に不興気な視線を投げるのでありました。
「僕が代表しているのではなく、先程も云いましたように、ここでは総士先生のご意志をお伝えさせていただいているのです」
 是路総士の名前を出せば、幾ら無神経な洞甲斐先生でも怯むだろうと踏んだのでありましたが、洞甲斐先生は一向に怖じる気配はないのでありました。
「そうであるのなら、総士先生も如何にも器量の狭いお人だ」
 この言葉は、万太郎は許せないと思うのでありました。と同時に、移籍を受けつけない理由に於いて、つけ入る隙を見つけたような気がするのでありました。
「例え洞甲斐先生でも、総士先生に対して無礼な発言は許しませんよ」
 万太郎は急に抑揚を抑えた声でそう云って、目を半眼にして洞甲斐先生を見据えるのでありました。幾ら鈍感な洞甲斐先生でも今の自分の言葉で、万太郎の気色が一変したのは充分判ったようで、気押されたように目線を逸らすのでありました。
「ああいや、別に総士先生をどうこう云う心算はないのだが。・・・」
「今はっきりと、どうこう云われましたよね?」
 万太郎は無抑揚の声と鉄壁の無表情を以って応えるのでありました。これはある種の喧嘩腰と云うもので、猛り狂うのではなくあくまでも静寂であるところに洞甲斐先生は余程迫力を感じたようでありますが、この程度の威迫でたじろいでいるようでは洞甲斐先生の、神技、なるものもその程が知れると云うものでありましょうか。
(続)
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