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お前の番だ! 455 [お前の番だ! 16 創作]

「そう云うものですかねえ」
 万太郎は顎に手を遣って思いに耽る顔をするのでありました。
「ウチの剣士郎なんかも、道場に居る間は三先生にペッタリくっついていますよ。この前なぞは鳥枝先生に手を引かれて、師範控えの間にまで上がる始末です。そこでキャラメルか何かを貰って、鳥枝先生と一緒に食っていましたよ」
「しかし実のところ僕としては当初、子供を厳しく仕こもうと思っていたのですが、三先生がある意味あんなに甘やかされるとなると、些かまごついて仕舞います」
 万太郎はほんの少々、小難し気な顔をするのでありました。
「ま、子供に嫌がられたら少年部も続かなくなりますし、ここは一先ず仕方ありませんかな。連中は、大体は常勝流がやりたくて自らの意志で入門したわけではなく、今のところ親に唆されて来ているだけですから、厳しいだけでは閉口するでしょう」
「それはまあ、そうですが」
「人数がもっと増えたり、今の子供達の学年が上がったりしてくれば、少年部の雰囲気も少し変わってくるでしょう。ご老人方も子供あしらいに厭きるかも知れないし」
「それもそうですねえ。僕も一先ずここは宗旨替えといくべきでしょうかね」
「しかし、少年部の稽古始まりと終わりは、道場の内外が嫌に華やかになりましたねえ」
 花司馬教士が話頭を少し曲げるのでありました。
「ああ、お母さん方の送り迎えの事ですね?」
「そうです、そうです」
 花司馬教士は思わずと云った風にニヤニヤとするのでありました。「妙齢、とは云いませんが、まあ、若いお母さん方がああやって稽古始まりと終わりの時間に、何人も道場にやって来ると云うのは、何とも華やいだ雰囲気がありますよねえ」
「大体、花司馬先生と同い歳くらいの方々ですよね」
「いや、小学校一年坊主のお母さんが家の女房と同い歳か少し若いくらい、あゆみ先生よりはチョイ上、と云った感じですかなあ」
「花司馬先生、その妙に嬉しそうなデレデレした顔は止めてください」
「おっと、これは失礼をいたしました」
 そう云って表情を引き締めようとするものの、花司馬教士の顔には締まりのない笑いの残滓が未だ充分に消え残っているのでありました。
「ま、確かに今までの道場にはなかった光景である事は確かですね」
「そのお母さん方に、指導陣の男共の中で一番人気があるのは誰だと思いますか?」
 花司馬教士は含みのある物腰でそう云って、万太郎の顔を覗きこむのでありました。
「さあ。花司馬先生ですか?」
「いやいや、私はカカア持ちですから員外です」
「じゃあ、総士先生や鳥枝先生、それに寄敷先生も員外と云う事ですかね?」
「総士先生はチョンガーでいらっしゃいますが、しかしお三方も当然幕の外です。お三方はお母さん方の父親と云っても良い歳回りなのですからねえ」
(続)
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