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お前の番だ! 454 [お前の番だ! 16 創作]

 男と女の差、と云う事もあるかも知れないと万太郎は考えるのでありました。生物として、子供なるものは女性の方に懐きやすいもののように思われるであります。
 男共の困惑を尻目に、あゆみ一人が子供達の心服を得ているように万太郎には見えるのでありましたが、ここは一つあゆみに子供あしらいの秘訣を伝授して貰わなければならないでありましょう。まあ、男共と一括りしてはいるものの、花司馬教士は例外のようで、流石に子を持つ親であってみれば万太郎以下の若輩とは少し違うのでありましたが。
 とまれ、こうして少年部の立ち上げも成りはするのでありました。三か月が経過すると少年部門下生は倍増するのでありますから、先ずは順調な船出と云えるでありましょうし、万太郎としても只管困惑している場合ではないと自らの意を励ますのでありました。
 そうなると是路総士と寄敷範士も少年部に興味を示し始めて、万太郎やあゆみに、子供の稽古はどう云う具合だと訊ねるようになるのでありました。その顔の印象から、到底子供の歓心を買わないであろうと思われる鳥枝範士までもが気にはなるようで、ワシが少年部の稽古の一端を受け持つと云う目は全くないのか、等と云い出すに及んでは万太郎もあゆみも驚嘆の表情もて、その鬼瓦みたいな顔を思わず凝視するのでありました。
 是路総士も、たっての希望から一度見所に座って貰った事があったのでありましたが、その時は来間に怒られて拗ねて泣き出した子供を、態々見所から降りてきて慰めながら肩を抱くように見所に連れて戻って、二人並んで座って、稽古を見学させているのでありました。万太郎すら稽古中に見所には上がった事等はなかったものだから、その特別待遇には、何とも云えぬ奇妙な表情をして仕舞うしかないのでありました。
 寄敷範士も鳥枝範士も矢張りそのたっての希望から見所に招待した事もあるのでありましたが、寄敷範士は黙って見所に座っておられずに態々下に降りて子供に指導を始めるのでありました。おまけに気紛れに子供の受けを取って畳にゴロリと転がって見せて、アンちゃんはなかなか筋が良い、等と大袈裟に誉めそやしたりするのでありました。
 万太郎なぞは寄敷範士に褒められた事なんか滅多になかったものだから、その光景を見ながら何となく調子が狂って仕舞うのでありました。この三先生のはしゃぎようなんと云うものは、一体全体どういう風が道場に吹き回った故なのでありましょうや。
 意外や意外、子供達に一番人気があるのは鳥枝範士なのでありました。厳つい鬼瓦が偶にニコニコしたりすると、子供は不意に嬉しくなるもののようであります。
「流石に自分の孫で鍛えられているだけあって、ウチの道場の爺様連中は子供のあしらいが上手いものですなあ。自分等は到底敵いませんよ」
 花司馬教士が稽古合間の休息中に苦笑いながら万太郎に冗談を云うのでありました。
「まあ、総士先生は孫がおありにならないのですが、その人徳のせいか子供が妙に懐いていますよねえ。ああ云った雰囲気は僕には出せません。しかし花司馬先生は剣士郎君と云うお子さんがおありなのですから、子供あしらいの薀蓄をお持ちでしょう。僕なんかは今までそんなに子供とつきあった経験がないので、まるで七転八倒の苦しみです」
 万太郎も頬に苦笑を浮かべるのでありました。
「いやいや、自分なんぞの薀蓄はあの爺様達の年の功には全く及ばないようです」
(続)
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