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お前の番だ! 448 [お前の番だ! 15 創作]

「そう云えば、万ちゃんの熊本弁は初めて聞くわね」
 あゆみが口元を手で隠しながら笑うのでありました。
「ああそうでしたかね。ま、今では敢えて熊本弁を使う場面もありませんから。それにこの頃では、僕は東京言葉の方が流暢ですからねえ」
「ああそう。でも、時々そうでもないかもよ」
「そうですか? まるで東京に生まれて東京に育ったみたいにペラペラと東京言葉を自在に操っている心算で、本人としてはいるのですが」
 あゆみはまた手で隠した口をモグモグと動かしながら、目尻で笑うのでありました。
「九州の言葉って何かゴツゴツしたイメージがあったんだけど、万ちゃんや熊本のご両親、それにお兄様の喋り方は、何となくゆったりしているって感じだわね」
「まあ、押し並べて早口でゴツゴツしていますけど、時と場合に依っては悠長な風にもなりますよ。福岡や長崎の方は早口のゴツゴツ一辺倒ですけど」
「ああそうなの?」
「いや、これはあくまでも僕の個人的な印象で、深く研究したわけではありません。そんな事を云っていると、福岡や長崎の人に怒られるかもしれませんし」
「今度の九州の出張旅行で感じたけど、確かに九州の北と南の方では言葉つきが違うわね。北の方はものすごく早口だけど、南の方は比較的ゆったりしているみたいな印象ね」
「ま、熊本も喧嘩の時には早口でまくし立てます」
 万太郎はそう云って気忙し気に、誉の陣太鼓を口に運んで噛み千切るのでありました。

 あゆみが唇に当てていたコーヒーカップを下に置くのでありました。
「万ちゃんがフラれて自殺を考えるくらいの、その彼女って、どんな人だったの?」
 あゆみが誉の陣太鼓の三つ目に手を出した万太郎に唐突に訊くのでありました。「ああ、話したくないようだったら、別に話さなくても構わないけど」
「いやあ、別に全然構いませんけど。・・・」
 万太郎は照れ臭そうに、且つ決まり悪そうにボソボソとそう云うのでありました。「高校二年生の時の同じクラスの、体操部のヤツでした」
「剣道部じゃないの?」
「剣道部と体操部は放課後に体育館の四分の一面を夫々使って練習していましたから、僕等が竹刀をふり回している隣で、平均台とか跳馬をしていたのです。ちなみに剣道部と体操部が四分の一面で、半面を広々と使っていたのはバスケットボール部の連中でした。ウチの学校ではバスケットボール部が強くて、県大会なんかでは何時も優勝を争っていましたね。まあこれは直接関係のない事ではありますが、一応念のため云い添えます」
 念のため、にしても全く以って不要で無意味な事かなと万太郎は考えるのでありました。別に本題を話すのに及び腰になって無駄口を重ねる心算はないのでありましたが。
「体操部の女子のレオタード姿にキュンとなったわけ?」
「ま、そんなところです」
(続)
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