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お前の番だ! 447 [お前の番だ! 15 創作]

「それは万ちゃん一人で食べて構わないわよ」
「いや、それでは来間に対して如何にもつれない仕業と云うものです」
「大丈夫よ。注連ちゃんや他の準内弟子の人達には、最後の旅先になった長崎空港で、長崎物語、とか云うお菓子を別に買ってきたから」
「ああそうですか。これは僕専用のお土産ですか」
 万太郎は思わず笑みを零すのでありました。
「そう。だから万ちゃんが独り占めして良いのよ」
「それは全く、有難いですねえ」
 万太郎はそう云ってあゆみに嬉しそうにお辞儀するのでありました。「ああそうだ、気がつきませんでしたがコーヒーを淹れましょうか?」
 顔を上げた万太郎があゆみに愛想をするのでありました。
「自分で淹れるからいいわ」
 あゆみは立ち上がって自分のコーヒーを淹れるのでありました。
「あゆみさんはこの、誉の陣太鼓、は、向こうでもう食されましたか?」
「ううん、食べてないわ」
「じゃあ、僕が独り占めするのも何ですから、ここで開いて一緒に食べましょう」
 万太郎は菓子折りの紙紐を解くのでありました。「実はこれは僕が高校生の時に発売された、比較的新しいお菓子なのです」
「へえ、そうなんだ」
「名物に美味い物なし、とか云いますが、これは外の餅も中の餡も、類する他の物より格段に美味いのです。僕は友達の家で初めてよばれて、思わず呻りましたね」
「それから大好きになったんだ?」
「ええもう、虜と云っても良いですね」
 万太郎はあゆみがアルミ箔の包装を解くのが待ちきれずに、先に一口齧りつくのでありました。懐かしい味が口腔一杯に広がるのでありました。
「どぎゃんですか、美味かでしょうか?」
 万太郎はやや遅れて口に一片を入れたあゆみに、敢えて熊本弁で訊くのでありました。
「うん、美味しいわ。味がしっかりしているし」
「でしょう?」
 万太郎はあゆみが間を置かずにもう一口を直ぐさま口に運ぶのを、さも嬉しそうに眺めながら云うのでありました。我が意を得たり、の返答であります。
「ひょっとしてこのお菓子を初めてご馳走になったその友達の家、と云うのは、万ちゃんが大失恋して自殺に走ろうとした彼女の家、なんて云うんじゃないの?」
「いやあ、そぎゃん事はありまっせん! 同じ剣道部の男の友達ですばい」
 ここも万太郎は敢えて熊本弁で応えるのでありました。別に何か意趣があっての事ではなく、何となく口から自然に熊本弁が出るのでありましたが、それは懐かしい菓子を久しぶりに頬張ったものだから、舌が昔の言葉つきを急に思い出した故でありましょうか。
(続)
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