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お前の番だ! 441 [お前の番だ! 15 創作]

 花司馬教士は苦い顔で頷くのでありました。「しかし板場の思い描いていたような形で再び世間の耳目を集めた、と云うわけでは全くありませんからねえ」
「威治宗家と仲違いしたのでしょうかね?」
「宗家のやり方にもうついていけないと云っていました。今の様な試合一辺倒の興堂流の在り方が、まるで道分先生の遺志であるかのように事あるにつけ云い募る宗家の欺瞞に、ついに堪忍袋の緒が切れたと云ったところでしょうか。板場としてはそれを諌めるような苦言も呈したのでしょうが、宗家はそれを聞く耳等持ってはいないでしょうから」
 興堂範士がもうこの世にいないのを良い事に、何かと云うとその名前だけはちゃっかりと利用して、その遺志とはまるで違う方向に興堂派を捻じ曲げ、そのくせケロリとして恥じない威治宗家に板場はストレスを募らせていたのでありましょう。亡き興堂範士への報恩と思って努めてきたその甲斐が、竟に消滅したのを覚ったと云う事でありますか。
「何処かで支部を新たに創ると云う事でもないのですね?」
「興堂流を見限ったのでしょうから、その支部を創ると云うつもりもないようです。それに威治宗家がそれを許す筈もないとも云っていました」
「こちらに移られると云うお心算も、おありではないのでしょうか?」
「今更、それも出来かねると云っていましたね」
 花司馬教士としては総本部に来ないかと誘ってはみたのでしょうが、確かにそうするには決定的に時機を逸したと云う思いが板場本人にあるでありましょう。
「そうすると板場先生は、これからどうされるのでしょう?」
「故郷に帰って何か仕事を見つける了見だそうです」
「武道とはもう縁を切られるお心算なのでしょうか?」
「そのようです。この世界に居る事にうんざりしたのでしょう」
「それは残念ですね。それと同時に、板場先生のような方が武道と無関係になって仕舞われるのは、実に勿体ないと云う気が僕はします」
「板場も、本心は武道を続けたいのでしょうがね」
 万太郎は、如何にも寂しそうな面持ちで花司馬教士にそう云った心根を訥々と語る板場の様子が、目に見えるようでありました。板場はどことなく陰気な性質でありましたし、何かを思いこんだら一途と云ったタイプの人でありましたから、浅慮の上に思いつきで動く威治宗家と反りがあう筈もないのは、端から判っていたと云うものでありますか。
「板場先生のお国は何方なのですか?」
「岩手の久慈の方ですね」
「岩手には盛岡に、竟この前僕が行った、旧興堂派だったウチの支部がありますが、・・・」
 万太郎はそう云いながら、岩手県の大まかな地図を頭の中に広げるのでありました。「しかし久慈の方から通うには、かなり遠いですかねえ」
「そうですね、気軽に通える距離ではないでしょうね。まあ、通えるとしても武道に見切りをつけた板場は、通う心算は全くないでしょうが」
「ああそうですか。何とも、本当に残念な事ですよねえ」
(続)
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