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お前の番だ! 415 [お前の番だ! 14 創作]

 旧興堂派の古手支部長の中には、体術に関しても剣術に関しても、総本部の技法と相容れない事を説く人もいるのでありました。万太郎は、理の面では、相手を説き伏せるだけの論を有していると自信を持っていたのでありますが、技の面では、門下生に対するその人の体裁と、自分より年季も歳も上である事に対する遠慮もあって、自信は充分にあったのではありますが、はっきりと組み伏せて仕舞うわけにはいかないのでありました。
 新しい境地に対して意欲的な支部長なら、万太郎の指導を素直に受け入れてくれるのでありましたが、そうはいかないなかなか偏狭な仁も居るには居るのでありました。しかしこう云う人は自分の在り方に何人の容喙も許さないようなタイプで、例え是路総士がその理や技の変更を迫ったとしても、おいそれとは受け入れられないのでありましょう。
 圧倒的な強さを示せばそれで良いのでありましょうが、そうやってあらぬ恨みを買っても無意味と云うものでありましょう。こういう場合、万太郎は鳥枝範士の迫力と押しの強さを、ないもの強請りに大いに羨ましく思うのでありました。
 依って慎に残念ながら折角総本部に移籍を決めながら、そんな体面や狷介さのために、結局は総本部からも離れて独立独歩を選択する旧興堂派の支部が二三出るのでありました。そう云うところも当然出るだろうと鳥枝範士は全く問題にしないのでありましたが、万太郎としては自分が指導と審査に関わったところがその離れた中に一団体あったので、何となく自身の責任でもあるような、後味の悪い思いに暫く苛まれるのでありました。
 しかし概ね、万太郎の指導は新加盟した支部から好評を得る事が出来たのではありました。旧興堂派の多くの支部が総本部に移る端緒をつけたと云える広島支部の須地賀支部長等は、万太郎の来訪を殊に喜んで迎えてくれた一人でありました。
 それは花司馬教士や亡くなった興堂範士から、時折万太郎の事を常勝流の逸材と聞かされていた事もありましょうが、須地賀支部長が移籍の打ちあわせ等に総本部へ訪ねて来た折に、万太郎の立ち居ふる舞いや稽古に対する姿勢、須地賀支部長への接し方等を見て大いに好感を持ってくれたからでもありましたか。自分の方が歳も年季も上であるにも拘わらず、須地賀支部長は万太郎を総本部の代表派遣指導者として返って万太郎の方が恐縮するくらい、例え自分の門下生達の前であろうと大いに立ててくれるのでありました。
「この折野先生は長く総士先生のお側に仕えてきた将来の常勝流を背負って立つエリートで、その指導を受けるチャンスなのだから、先生の技と理をしっかり学ぶように」
 須地賀支部長は稽古の前に門下生にそう訓戒するのでありました。これには万太郎にとって頭の下がる程の有難い配慮と云うものでありました。
 須地賀支部長は立場をさて置いて、少しでも疑問があれば万太郎に何でも指示を仰ごうとするのでありました。万太郎としてもその心意気に甚く感じ入った以上、誠心誠意を以って理をふるい技を披露するのでありました。
 勿論万太郎に須地賀支部長の心意気に応ずるだけの十分な技量がなければ、これは徒な配慮となって仕舞うのであります。万太郎はそう云う無様だけは避けたいと、実のところは相当なプレッシャーを感じたのでありましたが、しかしまあ、何とか無事に須地賀支部長の配慮を徒とする事なくこの出張指導を務めたのでありました。
(続)
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