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お前の番だ! 413 [お前の番だ! 14 創作]

 支部数が約三分の一になり、本部道場の門下生も相当数減ったようで、神保町の道場を維持するのに支障を来たしたためでありましょう。これは威治筆頭範士、今現在は宗家と称しているようでありますが、その威治宗家の自業自得と云うものであります。
 道分興堂の興堂流、と自流の冠に必ず興堂範士の名前をつけて呼び慣わそうとしているのは、もうすっかり興堂範士の威名頼みと云う風情で、威治宗家では世の耳目を引かないし、門下生もさっぱり集まらないと云うのが現実なのでありましょうか。
 最近総本部道場に移って来た旧興堂流の門下生辺りから漏れ聞くところに依れば、葛西の新道場は借家との事で、畳の数で云えば五十畳程、後は小さな受付部屋に数人の指導員等が屯しているとの事であります。他には六畳程の男女の更衣室、それに威治宗家専用の宗家部屋があるくらいで、神保町にあった興堂派道場が広い玄関を持つ自前の鉄筋コンクリート二階建てで、百畳程の大道場の他に三十畳の小道場もあり、後は受付部屋、指導員室、興堂範士が居た師範控えの間、内弟子達の合宿部屋、シャワーつきの男女更衣室、それに食堂を備えていたのに比べれば、随分様変わりしたと云えるでありましょう。
 受付部屋の顔ぶれも、板場や堂下は良いとして、他は例の瞬間活殺法の先生に空手や柔道界の溢れ者先生達で、これがまた稽古着の着方が到ってだらしのない、やけに脂の浮いた顔を厳めしく装った連中で、何やら破落戸の巣窟と云った様相のようであります。こう云う事を聞くと、凋落の一途、と云う言葉が万太郎の頭の中に浮かぶのでありました。
 また、旧興堂派の多くの支部が総本部の傘下に移ったのは、興堂範士の突然の他界に巧みに便乗した、総本部の陰湿な策謀があったためだと云う流言が流布しているようなのでありました。まるで興堂流の衰退は総本部の悪辣な目論見であるかのような、この噂の出処なんと云うものはほぼ推察はつくのでありましたが、こう云う無責任な浮説を流布させようと陰謀する辺りも、興堂流の凋落の明らかな兆候と云えるでありましょうか。
 この噂に万太郎と花司馬教士は憤慨するのでありましたが、是路総士は恬淡としているのでありました。それから鳥枝範士も寄敷範士も、皮肉な笑いを浮かべて舌打ちはするものの、こちらの二人も特段その噂に感情を昂じさせる事はないようでありました。
 鳥枝範士までもがこうも呑気にしているのは解せないのであります。万太郎と花司馬教士は何か対策を講じる必要があるのではないかと談判に及ぶのでありました。
「豎子は相手にしないのが一番の方策だ」
 鳥枝範士は全く歯牙にもかけていない様子でありました。
「しかし有る事ない事云いたい放題を放置しておくのも、あの威治の事ですから益々増長して、言説がエスカレートして仕舞うのではないでしょうか?」
 花司馬教士が危惧を表明するのでありました。
「増長すればする程、返って足元が疎かになって勝手に転倒するだろうよ」
「確かに噂の真偽は少し調べればすぐに判る事ですが、調べもしないで尻馬に乗る騒ぎ屋連中も出てくる事が考えられます」
「そいつらにしても、結局のところはお里が知れると云うだけだ。そんな下らん噂に律義にかかずらっていないで、折野も花司馬も淡々と自分の稽古に打ちこめ」
(続)
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