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お前の番だ! 394 [お前の番だ! 14 創作]

「鳥枝さんは、先代と威治君の間にあった事の逐一を、総て知っているわけではないのだから、そんな事を断定的に云えるものではないでしょう。貴方の知らないところで、二人だけの、継承者のみに伝授する技の特別の稽古があったかも知れないしじゃないですか」
 会長は体面上、あくまでもそう強弁するのでありました。
「あったかも知れないし、なかったかも知れない。会長さんも威治からの一方通行の話しとしてそれを聞いただけで、道分先生に確認したわけでのないでしょうよ」
「それは、そうだが。・・・」
「おい威治、お前、会長が知らないのを良い事に調子の良い法螺を吹くんじゃないぞ。お前が今までどんな態度で稽古に臨んできたのか、内部の者で知らない人間はいないんだからな。こちらにもちゃんとお前の典型的な盆暗息子ぶりが逐一伝わっているんだぞ」
 そう云われて威治筆頭範士は顔を起こして鳥枝範士を睨むのでありましたが、鳥枝範士の迫力に対抗出来る筈もなく、また力なく気後れ気味に項垂れて仕舞うのでありました。会長はその威治筆頭範士の様子を、苦々しそうに横目で窺っているのでありました。
「しかし威治君は興堂派では実力随一です。私が見る限り道分先生の在りし日の演武されるお姿に、時にドキリとするぐらい似ているところがありますよ」
「似て非なり、と云う言葉もありますな」
 鳥枝範士は恬として全く取りあわないのでありました。
「非かどうかはまだ誰にも判らないでしょう。何より、まあ、そちらには異議があるようですが、この威治君は長年道分先生の薫陶を得てきたのですし、何より血を受け継いでいるのですから、将来お父さん並みの武道家に変貌する資質は充分と云えるでしょう」
 会長は是路総士に向って未だ強情に云い募るのでありました。
「血の事をおっしゃるのなら、威治君のお兄さんとて条件は同じ事になります」
 是路総士はそう云って会長の言を一笑に付すのでありました。「お兄さんは武道とは全く無縁に生きてきた人で、どちらかと云うと学究肌で運動は苦手でした。それが道分さんの血を受けているからと云って、あんまり好きでもない武道に気が向かない儘これから臨んだとしても、お父さんを凌ぐ立派な武道家になれる確率はかなり低いと思いますよ」
「要は武道に熟達するためには、血筋とか才能よりも稽古量が絶対だと云う事ですな」
 鳥枝範士が続けるのでありました。「その稽古量を保証するのが、武道が何よりも好きだ、と云う心根でそれが今一つの絶対条件ですな。他にまともにやれるものがないから仕様がないので武道をやっていると云うような魂胆では、大成する筈もないし、道分先生の域に達する事は地球が右回りしても無理だ。この道はそんな甘いものじゃないですな」
「要するにそちらとしては、威治君を全否定なさると云う事ですね」
 会長はこれ以上の話しあいは無意味と判断したようで、結論を急ぐのでありました。
「全否定ではありません。今現在の興堂派の運営の仕方を否定しているのです。支部に対して、興堂派の方針と組織が全く揺らいでいないところを顕示するためにも、稽古上のつまらない外連を排し、道分さんが長年やっていた元通りの様態に復して、威治君がその中で将来の大成を期して精進すれば、それが結局道分さん偉業を継ぐ事になるでしょう」
(続)
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