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お前の番だ! 390 [お前の番だ! 13 創作]

「ああ、広島の須地賀さんならウチにも来ましたよ」
 威治筆頭範士はごく普通に何の気なくそう応えるのでありましたが、是路総士はその後すぐに次の言葉を継がずに、やや間を取って、その間威治教士の顔を呆れたように見据えるのでありました。是路総士の表情の不穏さに気づいて、威治筆頭範士は、覚えもなく何か拙い事でも口走ったかしらと云うたじろぎを隠せないでいるのでありました。
「須地賀さんは威治君の兄弟子で目上に当たる人なのだから、来ましたよ、ではなく、いらっしゃいました、と云うべきでしょう。そのくらいの作法は好い加減弁えなさい」
 是路総士はそんな風に云いがかるのでありました。全くの子供扱いでありますが、是路総士はこれまでに威治筆頭範士に向かって、いや誰に対してもそのような意地の悪い対応はした事がなかったので、万太郎は無表情を守りながらも少しく驚くのでありました。
「ああ、どうも。・・・ウチにも、・・・いらっしゃいました」
 威治筆頭範士がオドオドと云い直すのでありました。是路総士はその威治筆頭範士の様子を見下ろすような目つきで暫く見て、恐らく威治筆頭範士が自分の威にすっかり呑まれているのを冷静に確認して、それから徐に言葉を続けるのでありました。
「須地賀さんの話しでは、今の興堂派本部は道分さん、つまり君のお父さんだが、そのお父さんの稽古方針が全く守られていないと云う事だったが?」
「まあ、前に比べれば少しは変えていますが。・・・」
「少しどころの変更ではないと云う話しだったぞ」
 これは横手から鳥枝範士が被せるように云う詰問口調でありました。
「自分なりに、考えての事です。・・・」
「お前如きが、道分先生がずっと続けられてきた方針をお手軽に変更出来るのか?」
 鳥枝範士は元々声が大きいので、頭ごなしに怒鳴りつけているような風であります。
「まあ、待ってくださいよ」
 会長が威治筆頭範士の窮状を見かねて口を挟むのでありました。「何やらまるで、ウチの筆頭範士を寄って集って吊し上げていると云った雰囲気ですな」
「ああそうですか。そう云った辺りも、承知の上で、でありますな」
 鳥枝範士は会長の対抗的な目に、一層の挑むような眼光を投げるのでありました。万太郎には二人の視線のぶつかりに、本当に火花が飛び散ったのが見えるのでありました。
「鳥枝さん、でしたかね、では貴方にお聞きしますがね、常勝流の稽古には創意とか工夫とか云ったものは必要としないのですかね?」
 会長は鳥枝範士の眼つきに辟易して一旦そっぽを向いて、また目線を徐に戻して訊くのでありました。天敵同士が正念場で眼光の強さを競いあっているような按配であります。
「常勝流では決められた数本の基本動作を稽古の最初に行うが、これは常勝流の武技を支えるための体を創るためのもの。次に単独の当身法を行うが、これは当身の正確さや威力を養うと云う眼目の他に、当身をどのような体勢から繰り出しても、それが自分の体の芯に影響しないようにするための、これも体の創造のためのもの。それからそうやって養った体の強さを基盤として、組形、つまり約束稽古で武技の要領とその理を習得して、・・・」
(続)
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