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お前の番だ! 386 [お前の番だ! 13 創作]

 是路総士はそこで少し間を取るのでありました。「宜なる哉、と云うところかな」
「と、おっしゃいますと?」
 万太郎は少し身を乗り出して是路総士の顔を窺うのでありました。
「まあ、それはそれで尤もな動静であると云う事だ」
「つまり、そう云う事態を抵抗なく受け入れる、と云う事でしょうか?」
 是路総士は一つ頷くのでありました。
「興堂派との間に陰鬱な摩擦が生じると予想されても尚、と云う事でしょうか?」
 万太郎がそう質問を重ねると、是路総士はまた一つ頷くのでありました。
「考えてみれば、常勝流は常勝流として、出来るのなら一つに纏まった方が良い」
 万太郎はこの是路総士の放った言葉にたじろぎを覚えて、その顔を凝視して仕舞うのでありました。つまりこの言葉は、興堂範士とは長い間何の蟠りもないようにつきあいながらも、しかし心根の深いところでは、総本部から独立したその仕業に不快を抱き続けてきたのだと云う是路総士の思いの表明として、万太郎には聞こえたがためでありました。
「興堂派が解体するとしても?」
 言葉を滞らせた万太郎に代わって、あゆみがそう訊くのでありました。
「ま、そうだな」
「道分先生の威名を、先生が興した興堂派と云う組織に依って世に残す、と云う形を取らなくても、それはそれで構わないと云う事?」
「道分さんの名前と事績は、常勝流武道と云う本流の中で確固として輝く事になる」
「道分先生の興堂派、と云う流派は、先生の上天と伴にこの世から消えても良いの?」
 あゆみのこの質問には是路総士に代わって寄敷範士が応えるのでありました。
「常勝流興堂派には、云ってみれば道分先生のファンクラブ、或いは後援会と云った様相が、出来た当初から色濃くあったからなあ。そう云う意味では、道分先生がこの世から去られた後には、その存在理由も大半なくなったと云えるかも知れない」
 この寄敷範士の言には、万太郎も頷くところがあるのでありました。興堂範士あっての興堂派であり、威治筆頭範士がそれを継ぐと云うのは、何やら事柄に落ち着きが得られないように感じているのも、確かに一方の実感ではありましたか。
「昔、道分先生は興堂派と云う別派を興す気は、元々なかったとお聞きした事がある」
 鳥枝範士が話し出すのでありました。「これは道分先生から直に聞いた話しだ。しかし取り巻きや有力な後援者が強引に勧めるものだから、先生も竟に嫌とは云えなくなった」
 鳥枝範士はそう云ってあゆみの顔を見るのでありました。
「戦後暫くの間は、門下生もあんまり集まらないで、武道一本で食っていくのは大変な時代だった。特に古武道の世界ではそれが顕著だったなあ」
 是路総士がそんな事を俄かに話し出すのでありました。「後援してくれる人が何かを勧めてくれるのなら、その人がそれを勧める了見に多少の疑いがあったとしても、武道を続けるためにはその勧めに乗るしか方便の道はなかったのだよ。卓越した技量と人懐っこさで他の武道家よりは多少世に知られていた道分さんとても、それは同じだったろうよ」
(続)
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