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お前の番だ! 378 [お前の番だ! 13 創作]

 来間がそう云って是路総士をじっと見るのでありました。
「来間、随分思い切った事を云うなあ」
 食堂の方から万太郎が声を出すのでありました。是路総士も来間も万太郎の方に顔を向けるのでありましたが、来間の顔には何やら思いつめたような色があるのでありました。
「自分のような下っ端が云うのは不遜かも知れませんが、自分は常勝流を学ぶ者として、興堂派の筆頭範士の仕様は、どうにも許せないと思うのです」
「気持ちは判るが、相手は独立した別派でもあるし、今のところはっきり喧嘩を売ってきているわけでもない。こちらから、殊更事を荒立てる必要はないだろう」
 万太郎は来間を窘めるような云い方をするのでありました。
「しかし、常勝流武道の宗家である総士先生に無断で、それにあたかも道分先生の方針であったかのような捏造まで行って、常勝流の稽古法を自分の都合の良いように変容させているのですから、これはもう総士先生に譴責されても仕方がないと云うものですよ」
「成程、私が譴責すべき興堂派の所業、か」
 是路総士がそう、無表情に云うのでありました。
「そうでなければ、常勝流を守るべき宗家の怠慢と云われても仕方ないと思います」
 来間は敢然とそう云い放つのでありました。
「来間、そのくらいにしておけよ」
 万太郎が声を少し荒げるのでありました。「総士先生に対してその云い方は何だ」
「ああ、済みません。竟、云い過ぎました」
 来間は自分の不謹慎にすぐに気づいてたじろぐのでありました。
「お前如きが総士先生をまるで指嗾するような、そんな云い方をするんじゃない。自分を弁えろ。それに総士先生の口に出されない苦渋を、弟子として先ずお察ししろ」
「済みません。指嗾するなんて、そんな心算では毛頭ないのですが。・・・」
「注連ちゃんの意見も、確かに一理あるわ」
 洗い物にかまけて今まで話しに加わらなかったあゆみが、水仕事を終えて手を拭きながら万太郎の傍に来て横の椅子に座るのでありました。「お父さんが曖昧な態度で何も発言しないのは、興堂派に対して必要以上の遠慮だとあたしも思うわ」
「いや、総士先生は態度を曖昧にされているのではなくて、今は効果的な時期を計っていらっしゃるのだと僕は思っています」
 万太郎は横のあゆみを見るのでありました。
「未だそのタイミングじゃないって事?」
「そうです、と僕が応えるよりは、総士先生に直接お聞きになる方が確かかと」
「それはそうね」
 あゆみは頷いて是路総士の方に万太郎越しに身を乗り出すのでありました。「どうなのお父さん、時期を見て興堂派の横着にお灸を据えに行く心算はあるの?」
 父娘の気安さからか、あゆみは是路総士にざっくばらんにそう訊ねるのでありました。
「ま、未だあれこれ様子見だ、今のところは」
 (続)
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