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お前の番だ! 377 [お前の番だ! 13 創作]

 夕食後に万太郎は是路総士に、宇津利に聞いた話しを掻い摘んで聞かせるのでありました。是路総士はさもありなん、と云った顔つきで話しを聞いているのでありました。
「まあ、そんな風になっているのだろうと、ぼんやりながら予想はしていたが」
 是路総士はそう云って居間から食堂の方に居る万太郎を見るのでありました。
「試合重視、と云うのは、贔屓目で見ればですが、判らない事もないです」
 万太郎は敢えてそんな事を云ってみるのでありました。
「組形でしっかり技を自分の体に浸透させて馴染ませる事が出来た上で、その技の色んな状況下での使い方を錬ると云う意味に於いては、試合は重要な稽古法の一つだろうな。ま、しっかり自分の中で技が血肉となっている、と云うのが大前提だか」
「技がしっかり出来ていないのなら、確かにその不完全な技を使って試合しても、武道の稽古としては無意味でしょうね。ま、単なる喧嘩術としてなら試合慣れしていた方が有利と云えば有利でしょうが。しかしそれも個々の資質に依るところが大きいでしょうし」
「弱い者が強い者を相手にする時に技が必要なので、初めから強い者には技は要らなかろうよ。ま、試合ばかりやっていれば、弱い者でも一定程度喧嘩の腕は上がるだろうが」
「それはもう、武道、ではありませんよね?」
 茶を淹れた来間がそれを是路総士が座っている居間の卓上に置きながら、宇津利と話していた時の科白をまた持ち出すのでありました。
「そうだな。少なくとも我々が専らにしている武道とは異質だな。常勝流の技法を継承してそれを後世に伝えるとか、技法をとことんまで磨くとか、それにそう云う稽古の過程で得られる修行者としての境地の揚棄なぞは、殆ど考慮されないだろうな」
「宇津利さんのお話しでは、若先生、じゃなくて筆頭範士は、生前お父上の道分先生が、これからは試合重視の武道でなければ上達しないし技術の発展もない、とずうっとおっしゃっていたと門下生に喧伝されているそうですが、そう云う事はあったのでしょうか?」
 来間はさっさと居間ら退去しないで、是路総士にそう質問を重ねるのでありました。
「いやあ、あの是路さんは、そんなうっかりした事は云わなかったろうと思うぞ」
 是路総士は茶を一口啜るのでありました。「道分さんは上達のためには、組形稽古が先ず必要な事は誰よりも判っていた人だったし、乱稽古ばかりやりたがる者を、上達するための仕組みの判らない空け者と云って軽蔑していた。それは亡くなるまでそうだったな」
「では神保町の筆頭範士のおっしゃっているのは、法螺だと云う事ですか?」
「少なくとも私は、そんな科白は道分さんから聞いた事がない」
「筆頭範士は道分先生の名前を使って、無責任にも僭恣を行っておられるのですね?」
「そう迂闊にここで断言するのは控えるが、そんな事をあの道分さんが云う筈は、先ずなかろうな。常勝流の伝書でも、形を専らにして妄りに試合う勿れ、としてある」
「では今の興堂派は、常勝流の本義を為そうとしていないと云えるわけですね?」
 是路総士はそう訊き募る来間をやや持て余すように見るのでありました。
「ま、筋あいの上からはそうなるだろう」
「そうなら、興堂派に常勝流の名前を使うのを止めて貰うべきではないでしょうか?」
(続)
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