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お前の番だ! 374 [お前の番だ! 13 創作]

「いや、面能美はそんな器量の狭いヤツじゃない」
 鳥枝範士がそう云ってあっけらかんと笑うのでありました。この言葉からも、良平が会社で鳥枝範士に大いに買われ、期待されているのが判ると云うものであります。
「良さんはさっぱりした人柄ですから、屹度花司馬先生を大歓迎すると思いますよ」
 万太郎が脇から控えめに口を挟むのでありました。
「あたしもそう思います」
 あゆみが万太郎の言に同調するのでありました。
「まあ、さっきも云ったように、お前を何時までも鳥枝建設の愛好会で燻らせている心算はないよ、ワシは。まあ、今はこれ以上、特に何も云わん方が良かろうから云わんがね」
 鳥枝範士はまたも意味有り気に笑うのでありました。万太郎が察するところ、鳥枝範士は花司馬筆頭教士を将来、諸事が落ち着くところに落ち着いたら、総本部の指導者として正式に招聘するか、或いは興堂派から離れた門下生達の受け皿として、総本部の下で支部を結成させて、そこの指導と運営の一切を取り仕切らせる心算なのでありましょう。
 確かにそうすれば、花司馬筆頭教士の一身も立つし、鳥枝範士の武道上の愛兄であり、傑出した武道家でもあった興堂範士の残した技術を、この先継承していく場も確保されると云うものであります。鳥枝範士が花司馬筆頭教士を一先ず鳥枝建設の方に引き取ると云うのは、そう云う見取り図のための最初の布石と云う意味があるのでありましょう。
 つまり威治教士では興堂範士の武道の後継者としては不適合と、鳥枝範士が見切りをつけたと云う事であります。是路総士もこの鳥枝範士の処置に賛意を示したわけでありますから、こちらも威治教士を見限ったと云う事になるでありましょうか。
「押忍。ようやく寿司が来ました」
 廊下から来間の声がするのでありました。
「おう、待ちかねた。持ってこい」
 鳥枝範士が応えるのでありました。万太郎とあゆみが急ぎ立つのは、寿司を師範控えの間に運ぶ来間を手伝うためと、徳利のお代わりを持ってくるためでありました。
「折野、明日で構わんから寿司屋に電話して、オマエんところは寿司の注文が来た後で、ネタの仕入れに魚釣りにでも出かけているのか、と云う皮肉と、この鳥枝に不行き届きな真似をしていると出入り禁止にするからな、と云う脅し文句を、一応垂れておけ」
「押忍。承りました」
 万太郎は真顔で鳥枝範士にそう返事して、まるで寿司屋に成り変わってするような深いお辞儀をしてから、そそくさと座敷を後にするのでありました。まあ、万太郎は別に次の日に電話などしないし、一応鳥枝範士の命令だから仙川駅前商店街に行った折に、その道場懇意の寿司屋にちらと立ち寄って、冗談口調で角もなく、そう云えばこの前鳥枝範士が寿司が来るのが遅いと頭から湯気を立てていたと、店主に笑話する程度でありますが。
 寿司屋の亭主は鳥枝範士の気性を知っているから、それは済まない、良しなに取り成しておいてくれと半笑いで謝りを云うでありましょう。万太郎が寿司屋にすべき抗議の緩い態度も寿司屋の軽い受け応えも、実のところ鳥枝範士は既に承知の筈でありましょうし。
(続)
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