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お前の番だ! 371 [お前の番だ! 13 創作]

 鳥枝範士は急に謹慎な風情で背を丸めて首を垂れて、是路総士の酌を受けるのでありました。その急変が面白かったのか、あゆみが口に掌を当てて笑うのでありました。
「何か可笑しいか、あゆみ?」
 鳥枝範士はあゆみを横目で睨むのでありました。
「鳥枝先生、高血圧で病院に入院、と云う事態だけはくれぐれも用心してくださいね」
 あゆみはそう云ってもう一度笑い声を立てるのでありました。
「なあに、すぐに熱り立って見せるのは、実は鳥枝さんの素ぶりであって、本当は全く冷静なんだよ。ま、座の盛り上がりを促すための、云ってみれば愛想やサービスの一環だ」
 是路総士がそう云って笑うのでありました。
「総士先生、元帳を披露されては困ります」
 鳥枝範士は照れ臭そうに頭を掻くのでありました。「いやしかし、自派の呼称に常勝流の名前を冠していながら総本部を蔑ろにする事は、実際のところ看過出来ません。こうなれば一度は、総士先生の御出馬をお願いする事になるかも知れませんなあ」
「花司馬君の次は、私を唆そうと云うので?」
 是路総士はそう云って鳥枝範士に笑みかけるのでありました。
「いやいや、滅相もない」
 鳥枝範士は慌てて掌を横にふるのでありました。
「まあ、もう少し向こうの出方を待ちましょう。威治君には会長がついているのだし、幾ら政界の寝業師と云われた人でも、いや寧ろそうであるからこそ、無用に義理や礼儀を欠いて、態々相手につけこむ隙を与えたりするような無意味な真似はしないでしょうから」
「ま、総士先生がそう云われるのなら」
 鳥枝範士は自説を取り敢えず懐に仕舞うのでありました。
「ところで最近、総本部の様子は如何ですか? 興堂派からこちらに移って来る門下生が急に増えたりはしていないでしょうか?」
 花司馬筆頭教士が少し話しの舳先を変えるのでありました。
「まあ、幾らかはそう云う報告が支部から来ていますかな。総本部にも興堂派でやっていたと云う人が見学やらに見えるケースも、若干増えはしましたかな」
 是路総士がそう語るのを聞きながら、万太郎は先日来た宇津利益雄の事を思い浮かべるのでありました。宇津利の来訪は、興堂派から総本部へ移籍しようとする門下生の大量流入の、先触れのようなものであろうと万太郎は考えているのでありました。
 そうなると向こうが見れば興堂派内部のゴタゴタにつけこんで、総本部が漁父の利を占めたと見えるかも知れないのであります。冷静に見ればそんな事は云いがかり以上では勿論ないのでありますが、あの威治教士ならそんな僻目は得意でありましょうから。
 結局総本部までもが興堂派のゴタゴタに巻きこまれる事になると云うのは、これはもう間尺にもあわないと云うものでありますが、かと云って総本部に行先を求めた興堂派の門下生達を無下に門前払いするのも無責任と云うものでありましょう。万太郎は未だ起こってもいない難事に想像を回らして、秘かにたじろいでいるのでありました。
(続)
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