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お前の番だ! 366 [お前の番だ! 13 創作]

「それにしても、酷い話しね」
 あゆみはそう云ってコーヒーカップを下に置くのでありました。ほぼ同じタイミングで来間が、万太郎のために淹れたコーヒーをテーブルに載せるのでありました。
「すると今は、興堂派はどのような指導体制になっているのでしょうか?」
 来間が椅子に座りながら万太郎に訊くのでありました。
「若先生と板場先生と、それに堂下と、それから若先生が何処からか連れて来たと云う妙な連中が二三人、と云った陣容のようだな。確か来間も知っているだろう、八王子の興堂派支部の洞甲斐さん辺りも指導に来ているらしいぞ」
「洞甲斐さんと云うと、何やらムニャムニャと呪文のようなものを唱えて、人差し指で縦一列に並んだ数人の弟子の先頭をちょんと触って、弟子達を全員揃って後ろに吹っ飛ばすと云う、ええと何でしたか、瞬間活殺法、とか云う技の、あの洞甲斐さんですか?」
「そう。その洞甲斐さんだ。よく知っているな、来間」
「あの人は或る意味で、超有名人ですからね。妙に痩せた体型をしていて、白髪交じりの長い髪を後ろにポニーテールみたいに束ねて、髭も伸び放題で、稽古着の着方も、どうしたらそうなるかと云うぐらいだらしないと云うその風貌も奇抜ですし」
 来間はそう云って冷めた自分のコーヒーを一口飲むのでありました。
「お前、逢った事があるのか?」
「いや、随分前ですけど、テレビのバラエティー番組にちょろっと出ていましたよ。自分が未だ常勝流を始める前の事ですが、随分妙ちきりんなオッサンだと思いましたよ」
「へえ、テレビにも出た事があるのか」
「世の中にはこんな変人もいる、とか云うので取り上げられたのでしょう」
「ああ成程ね」
 万太郎は口の端に笑いを湛えて来間からゆっくり目を逸らすのでありました。
「お話しになる事も、法力で空を飛べるだとか、高尾山の天狗に修行法を習っただとか、聞いているこちらが目を白黒させなければなりません。前に片倉と話した事があるんですが、片倉もそのテレビ番組を覚えていて、同じ常勝流でも、自分達はあの先生の弟子にならなかった幸運を神様に感謝しなければならんな、なんて冗談云って笑いあいました」
「へえそ、うか。そんなに詳しくはあの人の事を知らなかったなあ」
「テレビで見た時はあの人が興堂派の八王子支部長だとは知らなかったのですが、常勝流を習い始めてからその事を知って、愕然としましたね」
「それは愕然とするだろう」
 万太郎はそう云って声を立てて笑うのでありました。
「それからこれは、物語、として伝わっている話しですが、或る酒の席で道分先生に洞甲斐先生が、そんなに凄いのならその天狗に習ったとか云う技を俺にかけてみろ、なんて云われて、それからは随分その怪気炎が萎んで仕舞ったと云う事です」
 来間は一体何処からそんな話しを仕入れてくるのでありましょう。常勝流修行者としてその辺りの情報を殆ど知らない万太郎は、迂闊と云えば迂闊と云うものでありましょうか。
(続)
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