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お前の番だ! 362 [お前の番だ! 13 創作]

「ところが、板場先生は未だ時々稽古の指導をされていますが、花司馬先生はもうすっかり指導をされてはいないのです」
 万太郎はその言を聞いて目を剥くのでありました。
「花司馬先生が指導をされていない、と云うのは一体どういう事だ?」
「まあ、要するに干されたような感じですね」
「干されたって、誰に?」
「当然、若先生に、ですよ」
 敢えて訊かでもがなの事を訊くな、と云ったような不快が宇津利の目に現れるのでありました。まあしかしこれは実は万太郎に対しての不快と云うよりは、自分が今名前を出した威治教士に対しての不快であろうとは万太郎にも容易に推察出来るのでありました。
「まさか、花司馬先生は興堂派を辞められたのではないだろう?」
「いや、辞められたわけではないのですが、稽古への顔出し無用と、財団会長に云い渡されたのです。勿論、実際は若先生の魂胆なのでしょうけれど」
「何と、まあ、・・・」
 万太郎は驚き入るのでありました。「道分先生がいらっしゃらなくなって、ただでさえ指導の陣容が手薄になっただろうと思えるのに」
「花司馬先生が居ると、あれこれの面で若先生の立場がないと云う事なのでしょうね」
「若先生の立場なんぞより、指導陣の実質を損なわないのが先決だろうに」
 これは宇津利に云っても詮ない事だとは判るのでありましたが、しかし万太郎は竟、詰問口調になっているのでありました。
「自分もそう思います」
「じゃあ、花司馬先生は道場にお見えになっていないのか?」
「いや、毎日いらしてますよ。しかし受付部屋で、スーツ姿で受付をされておられます。花司馬先生としては、幾ら会長に顔出し無用と云われても、興堂派から給金を貰っている以上、何やらの仕事はしなければならん、と云ったお心算なのでしょう」
「それは確かに律義な花司馬先生らしいお考えだろうな」
「でも若先生としては逆に、それも一層目障り、と云ったところでしょうけれど」
 宇津利は花司馬筆頭教士に対してそんな仕打ちをする威治教士を嘲笑うように、片方の口の端だけを微妙に吊り上げるのでありました。
「つまり当てつけがましい、と映るのかな?」
「まあ、そう云った辺りでしょうね」
 宇津利の口の端が一層吊り上がるのでありました。
「で、それなら若先生が総ての稽古を指導されているのか?」
「いやまさか。あの横着な若先生がそんな責任感があるわけがないですよ」
「しかしそれではどう考えても指導者が足りないだろう?」
「八王子だったか小金井の方だったか、そこで支部長をしている人とか、随分昔に内弟子をやっていて、今はもう全く武道から足を洗っている人とかが来ています」
(続)
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