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お前の番だ! 361 [お前の番だ! 13 創作]

 鳥枝範士に依れば、あの会長は、道分興堂、と云う威名が自分の政治的立場やら社会的評判やらにとって未だ充分に利用価値ありと踏んで、大いにそれを出しに使わんとして、その血を受けた威治教士に肩入れしているのだろうと云う事であります。本心では威治教士を歯牙にもかけていないけれど、興堂範士の名前を利用するに当たって、その実子の威治教士を手元に引きつけておいた方が何かと好都合であろうと云う魂胆でありますか。
「だから、威治に利用価値がなくなったら、あの会長はヤツをさっさと棄てるだろうよ」
 万太郎が何かの折にその辺を質した時、鳥枝範士はそう云って、冷めた笑いをするのでありました。「それに威治にとっては、そんな会長に頼る以外には何も寄る辺がない」
 鳥枝範士はそうも続けるのでありました。これは何とも、実に以って興醒めで殺風景なる相身互いの関係、と云うものでありましょうか。
 とまれ、直門連中の危惧やら不満やらも封殺出来る会長の剛腕と云うところでありましょうか。琴線を巧みに弾く甘言苦言、曖昧に仄めかすような恫喝やら賺しやら、寝業師会長の繰り出す錬りに錬られたその寝技の数々が、屹度その剛腕を裏から保証しているのでありましょうが、万太郎なぞにはその具体的な技巧は想像に余るところであります。
 威治教士にとっても、当面、実に結構な人が財団会長に収まっていたと云うべきかも知れません。しかし所詮、威治教士にしても会長に操られる側に居るのでありましょうが。
 さてところで、そうこうしているところに、花司馬筆頭教士がちっとも姿を見せない代わりと云うわけではないでありましょうが、興堂派の専門稽古生である宇津利益雄が総本部道場に万太郎を訪ねて来るのでありました。何となく思いつめたような顔をしているので質してみると、宇津利はどうやら興堂派の門下生を辞めるつもりのようでありました。
 何やらを万太郎に聞いて貰いたいような節が見えたので、夕方の専門稽古と夜の一般門下生稽古の間に時間があったから、宇津利を受付兼内弟子控え室に上げて、暫く話しをするのでありました。受付兼内弟子控え室には来間と準内弟子の狭間がいたのでありましたが、それを母屋の方に追っ払って宇津利と二人きりになるのでありました。
 宇津利は開口一番、自分は興堂派の専門稽古生を止める心算であると万太郎に告げるのでありました。そう云った後に宇津利が遣る瀬無いような溜息をつくのは、興堂派のゴタゴタが竟に門下生達の心根にも大きに影響を及ぼし始めたと云う表れでありましょうか。
「常勝流の稽古を止めて仕舞うのか?」
 万太郎がそう訊くと宇津利は顔を横にふるのでありました。
「いや、こちらの総本部道場に入門させていただきたいと考えているのです」
「ほう。それはまたどう云う了見で?」
「興堂派本部道場では前みたいなまともな稽古が出来ないからです」
 宇津利はそう云ってげんなり顔をするのでありました。
「技術の核であった道分先生がお亡くなりになったため、と云うのか?」
「それも、あります」
「花司馬先生や板場先生や、・・・まあ兎も角、そう云った先生がいらっしゃるだろう」
 万太郎は一緒に威治教士の名前を出そうとして、それを急に控えるのでありました。
(続)
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