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お前の番だ! 360 [お前の番だ! 12 創作]

「ああそうですか。私は出ない方が無難ですか」
「威治だけならヤツの魂胆を封殺するのは造作もないでしょうが、裏に、と云うか、寧ろ表に、政界の寝業師と云われたヤツが会長としてついていますからなあ。相手の好意や善意を、自分の都合の良いように巧みに利用するのは彼奴の得意技でしょうからね」
「私ではとても太刀打ち出来ないと云うところですかな」
 是路総士は微かに頬を笑いに動かすのでありました。
「そもそも常勝流には、寝技はあんまりありませんからなあ」
 鳥枝範士は冗談口調で返すのでありました。
「成程。日頃から稽古していない技は、実地には使えないと云うのは武道の常識ですな」
「武道勝負なら総士先生に敵う相手はそうはいませんが、政治絡みとなると。・・・」
「それは一応、私を誉めている言葉として受け取っておきましょう」
「畏れ入ります。まあ、ワシの方で件の知りあいの理事とかその他の手立てとかで、向こうに不穏と取られない範囲で、もう少し探りを入れておきますよ」
「私も、今度花司馬君が来た時にでも、何となくその辺を質してみましょう」
 確かに同じ常勝流とは云え総本部の人間が、独立した他派のゴタゴタに進んで立ち入るわけにはいかないでありましょう。余計なお節介と云われればそれ迄でありましょうし。

 花司馬筆頭教士はしかしあれ以来、なかなか総本部道場に姿を現さないのでありました。渦中の一人でもあるから、そんな時間も取れないのでありましょうや。
 この間、鳥枝範士の報に依ると、威治教士と財団会長の理事会に於ける多数派工作は愈々盛んとなり、大勢としてはその意を得る事が確実な状態になっているようでありました。嘗て政界で寝業師と異名を取った財団法人興堂会会長と、興堂範士の実子で興堂派本部道場長と云うコンビとなれば、確かに強力な威権がありそうであります。
 理事には興堂範士と旧知の政財界人や文化人も居るのでありましたし、全国に散らばる興堂派各支部長とかの興堂範士子飼いの古い門弟達も居るのでありました。会長を除いた政治家達や財界人、文化人と云った連中はどちらかと云うと興堂派の飾り石的な存在で、実際の興堂派の運営には殆ど関わってはいないのでありましたが、門弟筋に当たる者達は次の興堂派の顔が誰になるかという問題は、大いに深刻な懸案に違いない筈であります。
 しかし会長と威治教士の多数派工作が功を奏しているというのでありますから、門闥の内に居る興堂範士子飼いの連中もその威権に接して、心底は別にして、威治教士後継に大方納得し始めたと云う事になるでありましょう。威治教士は古い興堂派の門弟達にも、大体に於いて余り評判がよろしくないと万太郎は漏れ聞いていたのでありますが、この辺の理事達の所存の納まり具合なんと云うのは、如何なところなのでありましょうや。
 それに財団会長が何故頑強に威治教士後継に拘っているのか、その辺りの企みなんと云うものが万太郎にはもう一つ理解の及ばない部分でありました。それ程血統の連続やら家門の格式やらを心から尊ばんとする仁が、寝業師、とか云う、諸事に功利的でクールで、手練手管に長けた、如何にも隙がない風の渾名を人から頂戴するでありましょうか。
(続)
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